第3話 てんしさま

私は大きな爆発音で目が覚めた。


そしてその後に聞こえたのは泣き声や叫び声。


慌てて窓を開けるとそこには火の街と化した王国があった。


「こ、これは…?」


私は震える体をぎゅっと抱きしめ、深呼吸をする。


しばらくすると、扉から勢いよく従者が飛び出してきた。


「お、おうじょさま、りんごくがせめ…」


従者はなにかを言いかけると、その場に倒れ込んだ。


私は空いた扉を呆然と眺める。


そこになにかがいる。


私の本能がそう告げていた。


部屋の隅へと逃げまるくなる。そしてめをぎゅっと瞑る。


何者かの足音が、どんどん近づいてくる。


1歩。2歩。3歩。


するとその足音は私の目の前で止まった。


「……王女よ。」


ふと、懐かしいような、でも聞き覚えのない声が私の耳にはいった。


私はそっと顔を上げるとそこには


てんしが、いた。


あぁ、ついに私にもお迎えが来たのか。

でもどうせ、早くに死ぬ運命だったんた。そう思うと心は何故か落ち着いていった。


「天使様、早く私を連れて行って…?」


私はそっと微笑む。


「………。」


天使様は少し驚いた顔で私を見つめた。


そして私はそこで、意識が途絶えた。


_____________________


ふわり ふわり

てんしさまは むかえにきた

わたしのてをとって

やさしくほほえんだ。


きらり きらり

おほしさまは てらしにきた

わたしがまよわぬように

やさしくみちびくの


ことりよ かぜよ つたえておくれ

わたしはしあわせだと


とおいあのひとにつたえておくれ


いまから あなたのもとへゆきますと


_______________


ふと目が覚めた。


なぜかとても温かい。


ここが天国…?


体を起こし、周りを見渡すとそこには…


「…かわいい…」


花柄のじゅうたんに、絵本に出てくるような暖炉。


机の上には美味しそうなクッキーが置いてある。


私はそっと頬をつねる。


しかしこれは現実のようだ。


…私は天使様に…会って…それで…。


どうしてもそこから先が思い出せない。


うぅん…と小さく唸ると、もう一度頬をつねる。


痛みはある。ここは天国じゃない。


ではどこ?


とても幸せに感じた時間は一瞬で消え去り、恐怖が芽生えてくる。


すると


「…起きた…かな?」


と男の人がやってきた。


私とは正反対の白い髪。

まるで天使様のようなふわふわした感じの人。


「…ここは、どこ?」


男の人はくすくすと笑うと、


「ルシェール王国だよ。君の国の隣にある。分かるかな?」


と言った。


ルシェール王国。

謎に包まれた国のひとつ。


でも、なぜ、わたしはここに?


不安そうに俯く私の頭を男の人は優しく撫でた。


「君の王国は滅んだよ。

今日から君はここの王女様だ。」


と、いった。


…………?


私の国は滅んだ…?


そして今日から私はここの王女…。


混乱している私をくすくすと楽しそうに見つめる男の人。


この人は、なんて名前なんだろう


「あの、天使さまのお名前は…?」


おずおずと尋ねると、男の人は目を見開いて、そしてこう言った。


「ルシファー。僕の名前はルシファーだよ。正確にはルシファー・ラノーンド・エルトリア・ルシェール。この国の王子だよ。よろしくね、レイチェル王女。ん?でも今日からは僕の妹なのか。レイチェル王女って変だよなぁ」



突然うぅーんと唸り始めたルシファーさんをじいっと見つめる。


「あぁ、君のことはレイって呼ぶことにするよ。よろしくね、レイ。突然の事で混乱していると思うけど、きっとすぐに慣れる。」


そういってまた優しく私の頭を撫でた。


今までこんなに優しく撫でられたことは無かったから、なんだか不思議な気分だった。


「…今日はもう少しおやすみ、レイ。明日また、お話しようね。」


そう言って私の体をベットに戻すと、


「おやすみ。」


と言った。


不思議と私はすぐに眠りについた。


ルシファーはレイチェルの髪を優しく撫でる。


「…天使様、か。」


そう静かにつぶやくとすやすやと眠る新しい妹の顔をみつめ、立ち上がる。


「呪われし子よ、僕が守ってあげるからね」


ルシファーはまた、優しく微笑んだ。

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