第2話 神様なんて大嫌い

私はルノード王国の第14番目の王女としてこの世に生を受けた。


この王国の王は愛人を多く持ち、子どもは20人も存在している。


私は王妃から生まれた。


それが唯一の救いだったと思う。


しかし、王妃は心を病んだ。

そう、私が「呪われし娘」だったから。


周りから酷く冷たい視線を投げられ、また愛人たちからは酷く罵られたという。


そして私はレイチェルという名前をつけられ、高い塔に押し込められた。

そしてその塔には1人の女がいた。


彼女の名はサリ。


サリは私にミルクを飲ませ、おむつを替え、私を育て上げた。


何故サリは私を拒まなかったのか。

そもそもなぜあの塔に存在していたのか。


サリは不思議な人だった。


しかし、サリは突然いなくなった。


私の従者となった者にサリの行方を聞いたが、答えはくれなかった。


私は図書館のみ、立ち入りを許可されていた。


塔から続く1本道をひたすら降り、誰にも見られないようにコソコソと目的の本を探し、来た道を静かに戻る。


私にとって、本が全てだった。



ある日、私は窓を開けた。

そしていつも通り本を読んでいると、突然部屋の中に傷だらけの白い鳥が入ってきた。


私は慌てて本を閉じ、鳥の元へ駆けつける。


どうやら羽が折れているようだった。

私は急いで手当をし、この美しい鳥が再び羽ばたくことを望んだ。


すると何日か経った時、私の願いが通じたのか、白い鳥は元気に飛び回るようになった。


私はその鳥に「キィ」と名付け、一緒にいてほしい、と呟いた。


キィは人間の言葉が分かるのか。

小さな声でぴぃ、と鳴くと元気に私の周りを飛び回る。


従者は酷く顔を歪めていたが、許してもらえたようだ。




私の部屋には時々、王子や王女がやって来ることがあった。


そう、私を罵る為に。


「お前のせいで王妃様は心を病んでしまったと母上に聞いた。お前は悪魔の子なんだな!」


たくましい腕をした少年に壁へ投げつけられる。


「お母様が、『あなたなんていらない』って言ってらしたわ。可哀想!」


きらびやかなドレスを着た少女が、ヒールで私の手を踏む。


いたかった。

くるしかった。

つらかった。


でも私には反抗する方法はなかった。

せいぜい「ごめんなさい」と謝るだけだった。


髪の毛を無造作に切り落とされたこともあった。


顔が腫れるまで殴られたこともあった。


なんども塔から飛び降りおうとした。

でも、私の呪われた人生はそれを許してはくれなかった。


「…かみさまなんて、きらいだ。

かみさまなんているもんか。」


私は幼いながらに布団の中で、酷く痛む傷を抑えながら寝れぬ夜を過ごしていた。


______________________

「……嫌なこと、思い出しちゃったな」


私は瞼をゆっくりと上げ、見慣れた天井を見つめた。


そして昨日の少年の顔を思い出す。



恐らくあれは、第12王子のノエル様。


私と同じく王妃の子で、私に会うとひどく痛めつけてくる者の1人だった。


あと3年…。


私は明日で12を迎える。

あと3年で火炙りだ。


……神様、か


私は窓を開け、空に浮かぶ大きな月に手を伸ばす。


届かない。



あの月に手が届けば


翼が、欲しい。

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