漆黒の天使は愛されている
白兎
第1話 羽がもげた天使は何を思う
黄金の国・ルノード王国。
そこには美しい金色の髪を持つ王族が存在している。
…ただひとりを除いて。
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「……。」
そこは、図書室だった。
最近の本から古い本までずらりと並べられている。大理石を敷き詰められた床は春の温かい日差しを受け、きらきらと輝いていた。
そして私の目の前には、美しい黄金の髪を持つ少年が私の行く手を阻むように仁王立ちしていた。
「おい、お前。」
やけに高圧的な態度で呼びかける声に
ゆっくりと顔を上げる。
「…なんですか…?」
もさもさに伸びた黒髪をかき分け、なるべく目を合わせないようにして返事をする。
「お前が呪われた14番目の王女か。」
少年は少し高めの声で私に質問を投げかけてくる。
「…はい、第14王女のレイチェルと申します。」
私は少年の肩を見つめながら答える。
「挨拶をする時は相手の目を見て、と習わなかったのか。」
少し不機嫌そうな声で私の挨拶を咎めた。
確かにその通りだ。
「申し訳ございません。私の瞳は不気味だと言われております故。」
私はそう言いながらちらっと少年の瞳を見た。
少年の瞳は透きとおる空。森に湧き出る泉のような美しい水色の瞳をしていた。
「…ふん。」
少年は鼻で笑い、私の髪の毛を無言で掴むとぐいと上にひっぱる。
「っ!」
私が顔を歪めると、少年はにやりと笑う。
「お前の呪われたこの黒髪…いっそ切り落としてやろうか?」
「っ…結構ですっ!」
私はそういい少年の手を振り払う。
「ふんっ。そうか。……二度とその忌まわしい黒髪を俺の目の前に持ってくるんじゃねぇぞ。次は切り落とす。」
少年はそう言い放つと図書館から出ていった。
「……申し訳…ございませんでした…。」
私は足に力が入らなくなり、地面にへたりこむ。
そして静かに目を閉じる。
ルノード王国を収める一族はみな、黄金の髪を持っていた。なかには柔らかい黄色の者もいるが、血が濃ければ濃いほど、金色へと近くなる。
それは王族である証であり、権力の象徴。
そしてこの王国にはごく稀に「呪われし黒髪」を持つものが生まれることがあった。
黒髪には「悪魔」が宿っていると言われ、その髪を持つものは齢15の誕生日に火炙りにするという決まりがあり、歴代の黒髪を持つ者は全員その決まり通りに火炙りにされていた。
「…私も、いつか火炙り…か。」
自分の黒髪を見つめながら溜息をつく。
呪われた姫君。
神に見放された少女。
私はずっと、そう言われ続けていた。
優しい日差しが私の髪を照らす。
爽やかな風はまるで私の心を宥めるように流れ、草木は心地いい音を奏でていた。
私は深呼吸をし、ゆっくりと立つ。
そしていつものように隠し通路から自分の部屋へと戻った。
部屋には沢山の本が散らばっていた。
…部屋と言っても高くそびえ立つ塔の中で。広さはそんなにないし、ベットがひとつ、ちょこんと置いてあるだけの質素な部屋だった。
「…ふぅ、この塔は何回登っても慣れないな。」
私はそっとため息をつくと本を床に下ろす。
窓を開けると涼しい風が頬を撫でる。
「…キィ!」
私は愛鳥の名前を呼ぶと、ハープを取り出し、音を奏でる。
すると1羽の白い鳥が私の元へやってきた。
「キィ、今日はどこへ行っていたの?」
私は愛鳥を優しく撫でるとそっと肩に乗せた。
「…私もあなたのような美しい羽が欲しいなぁ。」
愛鳥はぴぃ、と小さく鳴く。
「ふふ、ないものは仕方ないもの。私は決められた運命を辿るだけよ。」
ぴぃ…と悲しげに鳴く愛鳥に「あなたにもっと素敵な人が見つかるわ。あなたは美しいもの。みなよろこんで世話をやいてくれるわ。」と言うと、先ほど借りてきた本を開き、ページをめくる。
…そうだ、これが私の運命。
塔の中で1人、静かに本を読んで15の時を生き、そして人に殺される。
私は悪魔に取り憑かれた呪われし子。
私の赤い瞳は人を苦しめ、黒い髪は地獄へと引きずり落とす為のもの。
ぽとんっと、本に雫が落ちる。
…神様、あなたは本当に残酷だ。
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