第4話「全部、俺が悪いから」

部屋で一人、テレビをつける。


『××市で殺人事件』と、テロップが表示され現場の映像が映っていた。


「××市で遺体が発見され…遺体には首に傷があり…血が抜かれて……」


…俺はテレビを消して再び横になった。


加害者の気持ちは特に興味は無いけれど、被害者は何を考えていたのかな。

「なんで自分が」とか「もっと生きていたかった」なのかな。


……まぁ、きっと加害者を恨んでいるよね。

俺は目を閉じた。



***


僕、成島優貴は、久々の吸血鬼事件に、不謹慎だけど僕は少し興奮していた。

やっぱり吸血鬼はいるのかもしれない。

「今度こそ会えるかなぁ…!」

僕の好奇心はもう抑えられない。

一人はしゃいでいるところに『新着メール:一件』の文字。

僕は急いで開いてみる。

『明日の21時、廃ビルへ』と、書かれていた。


町の外れに廃虚があり、大きなビルが立っている。恐らくそこの事だろう。

そこに行けば、また面白いものを見ることができるかもしれない。

やっぱり、当たり前なんてつまらない。香井さんや、巡さんとは考え方が違うのだろう。それならそれで構わない。僕はそれでもこの状況を楽しみたい。

しかしこのメール、誰が送っているのだろう。


***


私は情報集めをしていた。

彼女に協力してもらうには、それなりの情報が必要だ。

それでも独自の情報網を持つ彼女に、普通の女子高生が情報量で勝てる訳がない。


パソコンを点けて必要な情報が出そうな言葉を入れていく。

情報が駄目なら策でいく。私は知恵を振り絞り考える。

絶対に成功させなくてはいけない、彼の為にも。


成島君は吸血鬼事件に夢中だし、ライヒは何を考えているかわからないし、せっかく仲良くなった二人を引き離すのは少し胸が痛むが、このままだと成島君は戻れなくなる。


仮にもライヒはこちら側の人だ。だから、私は引き離さなくてはいけない。そして、当然私も離れなくてはいけない。



「過度な欲を持った者は異世界に連れていかれる」

……あれは、都市伝説なんかじゃないのよ。






「おもしろくない子がいるね」

彼女を見て、誰かが呟いた。




メールに書かれていた時間が迫っている。

僕は今、廃ビルの入口にいる。ようやく吸血鬼と対面できるのだろうか。

僕の頭には襲われる、等といった考えは一切無く、ただ興奮していた。


足を踏み入れ、静かに進んでいく。

ビルは静かで、自身の足音だけが響いていた。

2階に上がると、辺りは一階より汚れていて荒らされた様な形跡があった。

「誰かいたのかな…?」

僕はライトを照らしながら何かを探していた。

「そこの少年、ここで何をしているの?」

カツカツとヒールを鳴らしながら、葡萄色の髪をツインテールにし、黒いレースたっぷりのワンピースに身を包んだ女性がこちらへ向かってきた。

「成島優貴ね?」

女性は疑う様な目つきで僕を見上げた。

「そう…ですけど」

「ちょっとあんたの知り合いから言われててね、今日はさっさと帰りなさい」

物凄い威圧感に圧倒される。

彼女は大人しければ、この廃虚にピッタリの雰囲気だなとか、良い写真が撮れそうだな等、全く関係ない事を思いつつ、負けずに言い返す。

「そういうあなたは何者ですか?」

すると彼女はきょとんとし、

「まぁ、名乗らないのも確かに失礼ね、あたしは明里 灯子」

「…では、明里さんは一体何の目的で?」

明里さんは携帯を点け、

「…呼び出されたのよ、21時に」

と、時間を確認しながら言った。

「え、僕もですけど…」

「あんたも?まぁ、あんたはとりあえず帰りなさい、子供が出歩いて良い時間じゃないわ。ましてや廃虚なんてもってのほかよ」

…しばらくの沈黙が続く。

「あの、明里さんは誰に呼ばれたんですか?」

明里さんは

「…さぁね、関係ないでしょ?」

と、顔を上げずに言った。

はぐらかす、ということは明里さんもメールを受け取っているのだろうか。

「…あの、明里さん」

僕が呼ぶと彼女は顔を上げ物凄い剣幕を見せた。

「さっきからうるさいわね、今度は何?」

「あ、明里さんは吸血鬼なんですか?」

もっと良い聞き方はあったはずだが、それしか言葉が出なかった。

「はぁ!?あたしが?そんな訳ないじゃない!大体、人の血液を飲むとか衛生的に問題あるじゃない!」

と、彼女は予想以上にお怒りだった。

すぐに謝ったが、聞く耳を持たず、更に勢いは増すばかりだった。

怖い、すごく怖い。多分、吸血鬼も逃げ出すくらい怖い。


しばらくして、明里さんはため息をついて落ち着いた。

「…あたしも吸血鬼を探しているの、あんたみたいな好奇心じゃないけど」

ぽつり、と呟いた意外な言葉。

「あの、明里さ_」

言いかけた時だった。誰かの足音が聞こえた気がした。

すぐに明里さんは立ちあがり、

「あたしが見てくる!」

と、走って行った。

僕の言葉も聞かずに、向こうへ行ってしまった。



必死に追いかけたが途中で見失い、音のする方へ向かって進んでいたが、音が響いていて、更に慣れない場所での探索では、明里さんを見つけるのはかなり時間がかかった。


立て付けの悪い扉の向こうから声が聞こえる。

そっと耳をすませてみる。

何を言っているかは聞き取れないが二人くらいの声が聞こえる。

片方は明里さん、もう片方は_


扉が外れ、僕は体勢を崩す。

「痛い………っ!?」

顔を上げると明里さんともう一人、見慣れた姿が視界に入った。

「ライヒ………君?」

ライヒ君はぐったりとしていて動かない。


明里さんは口を開き、

「少年、あたしが吸血鬼について教えてあげる」

と、言うとライヒ君をヒールで踏みつけた。

「吸血鬼事件の犯人はこいつよ、こいつは本物の吸血鬼」


すぐには信じられなかった。

しかし、初めて会った時、僕の吸血鬼への関心に対して不安そうにいた事を、今思えばそれは彼が本当に吸血鬼だからだったのだろうか。

「…まだ、信じられないです」

今まで仲良くしていた相手だ、まさか吸血鬼だなんて思えない。

それに、会ったばかりの人に彼は吸血鬼だと言われてもはい、そうですかとはいかない。


「まぁ、そうよねぇ、信じたくないわよね」

彼女は足をライヒ君から退ける事は無く、そのまま続けた。

「あんたが知ってる吸血鬼の特徴には何がある?」

吸血鬼の特徴、見た目や弱点、習性等か。僕は今まで集めた情報を思い出し、

「身体能力が高くて、夜行性であと、肉体再生能力もあって、日光や銀製品に弱くて…」

「あぁ、そのくらいでいいわ、じゃあその銀に弱いってことなんだけど」

遮って彼女はそう言うと、折り畳み式ナイフを二本出した。

「こっちは普通のステンレスのナイフ。で、こっちは銀製のナイフ」

説明した後で、ステンレスの方の刃を出し、ライヒ君が動けないように押さえつけ

「よく見てなさいよ」

ライヒ君の左手首を切りつけた。

ライヒ君は顔を歪めたが、相変わらずぐったりとしていて

抵抗する様子も一切無かった。

「これが、普通のナイフの場合ね」

と、明里さんはライヒ君の腕を僕に見せた。

深めに切られた手首からは当然、血が流れていたが、出血はすぐに止まり傷は浅くなっていた。

「これが、こいつの再生力だけど、銀のナイフなら_」

明里さんは説明をしながらナイフを持ち換え、再びライヒ君の手首を切った。

先程はあまり反応を見せなかったが、今度はライヒ君の口からは声が漏れた。

傷は先程よりは浅かったが、ずっと苦しそうにしている。

僕は彼ならまた自力で傷を塞げると思っていたが、傷は塞がる気配は全く無く、寧ろだんだん深くなり傷の周辺の皮膚は火傷した様になり、次第にその範囲は広がっていき傷口からの出血量は増えていった。


「ねぇ、どう見ても異常でしょう?さっきの時とは全く違うわよね」

勝ち誇った様な表情の明里さんに対して、僕は脅しをかけてみる。

「そんな事をして、今僕が警察を呼んだらどうするつもりですか?」

すると、明里さんは嗤いだし

「やれるもんならやってみなさいよあたしが思うに、あんたは警察を呼べない」

と断言し、続けた。

「あんたは始めから吸血鬼を助ける気なんて無かった。実際、あたしが吸血鬼を取り押さえた時、あんたは何もできなかった、いや何もしなかった」

「ぼ、僕はそんなつもりじゃ…」

「あんたは友達がどうなるかより、自分の好奇心を優先した。その態度からして恐怖心とかは無いだろうし、要するに自分さえ良ければどうでもよかったんでしょ?」

明里さんの言葉に言い返す事ができない。

「まぁ、仮に警察呼んでも、あたしもこいつも捕まって終了。まぁ、自分でどうするか考えなさい」

僕に対してその言葉を最後に、明里さんは再びライヒ君の方へ向かい

「お友達に裏切られたのが運の尽きねまぁ、罰だと思いなさい」

と、ライヒ君に言い彼の手足を数ヶ所切りつけ、最後に腹部にナイフを突き刺した。

「成島優貴、これからどうするかはあんたが決めなさい」

明里さんはそう言ってこの場を去った。


僕はその場に立ち尽くしていた。

明里さんの言っていた事が本当なのか確認するには、彼から話を聞かなくてはいけない。

さて、僕はどうするべきか。


僕はライヒ君の傍へ行く。

彼はかなりの傷を負っていたが、まだ息はある様で、弱々しく呼吸をしていた。

「お願い……、助けは呼ばないで……」

彼の意外な言葉に驚く。

「どうして?このままだと君は死ぬ。もしかして助けなかった人に、助けを呼ばれたくない?」

顔を覗きこみ彼に問いかける。

「違う……、騒ぎを起こしたくないだけ…巡……、巡に迷惑はかけたくない……」

頑なに助けを拒む彼の行動は理解できなかった。

「助けを呼ばなかったとしても、間違いなく巡さんは捜しに行くと思うよ?何か事情でもあるの?」

「……全部、俺が悪いから……もし俺が吸血鬼だってバレたら、人間はきっと研究だとかで…狭い部屋に一生閉じ込めるでしょ…?」

動物実験等を散々行ってきた人間だ。彼の事が公になれば、実験台にされるかもしれない。どちらにせよ、人を殺している事に変わりはない。何もない事は無いだろう。


「じゃあ、巡さんを直接呼んでみたら?」

返事は返ってこない。本人にその気がないなら、僕も助ける必要はないだろうと、この場を去ろうとすると携帯が鳴った。

「着信……?」

とりあえず、応答してみる事にした。

「はい」

『成島優貴君だよね?君にお願いがある』

全く聞き覚えのない男の声だった。

「ど、どちら様でしょうか…」

『今は説明している時間は無いんだ、その子を助けてほしい』

「ライヒ君を…?」

『その子の上着のポケットに携帯が入っている。連絡すべき人に連絡するんだ』

指示を受け、僕はライヒ君の上着のポケットを探る。

この時、彼の息遣いは殆ど聞こえず、僕が触れても一切反応しなかった。

黒い携帯を見つけ、男に

「携帯ありました、次は?」

『ロック番号を言うから解除して連絡してほしい、番号は_』

言われた番号を打ち込み巡さんに電話をかける。

「もしもし、成島です。実は今_」


***


「もしもし、香井?灯子だけどとりあえず言われた通りにやったけど?」

あたしは香井に連絡をしていた。

『お疲れ様、わざわざごめんなさい。それでどうだったの?』

どうだったの、なんて白々しい。

あたしだから頼みやすかったというのは、わからなくもないけれど。あたしに頼みやすい事を知っている以上、結果なんてわかりきっているはずなのに。

「どうだったも何もあいつは重傷、もう動けないわ」

『…助かったわ』

まだ子供なのに、大人にこんな事頼むなんてね、見かけによらず恐ろしい奴。

「そりゃどうも…、ところで、成島少年まで呼ぶなんてね。お友達の目の前でやらせるなんて、あんたも中々性格悪いわね」

精一杯の嫌味を言ったつもりだが、相手から返ってきた言葉は意外なものだった。

『…どういう事?』

香井はそのまま続けて

『私が呼んだのはライヒだけよ?』

と、言った。


あたしは、返事もせずに電話を切った。

気持ちの整理ができない。まるであたし達は夢でも見ているのか。

あたしはメールを開き『真実を探せ』とだけ書かれたメールをただ見ていた。

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虚伝と背反 ぷらた @pulata

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