理不尽な彼氏 ~拓斗と静香の物語~

前田渉

第1話 ドライブ

国道134を調子に乗って車を飛ばしている彼氏。眩しい日差しにサングラス。大音量の洋楽。今日は滅茶苦茶ご機嫌らしい。今年で二十四になる。彼氏とつき合いだして二年。今までつき合ったことがないタイプ。


一言で言えば自分勝手でわがまま。今どき珍しい肉食系。でもそんな彼氏に惹かれた。今日は湘南の海岸線を走ってドライブ。伊豆に一泊二日の旅行に行く予定らしい。


早朝に彼氏から連絡。携帯が鳴った。


「今日はポニーな、ポニーで来いよ」この間した髪形のポニーテールが凄く気に入っているらしい。電話をを切ってポニーテールにしていたらまた携帯がなった。「ミニな、フレアーのミニな、分かったな」そう言って勝手に電話を切った。


かなりエロい彼氏。今までの自分なら絶対につき合わない。それに言うことも素直に聞かない。でも、不思議と彼の言いなりになってる自分が好きだったりしてる。鼻歌を歌いながらミニのスカートを選んでる自分がいる。ミニのフレア。全部今の彼氏のプレゼント。いつも足を何気に触ってくる。私の足が好きだって言うのが彼氏の口癖。じゃ、私自身はって聞くと、いちいち細かいこと聞くなとか逆切れ。そんな理不尽な彼氏だけと、不思議と両親のウケがいい。つき合った彼氏は数人いる。両親も会ったことがある人もいた。でも、全部NG。却下。あんな男を連れて来るお前が分からないとか、いつも不機嫌になってた。


彼氏が気に入らないとかは関係なくて、私に彼氏がいるのが気に入らない。許せないと思っていた。だから、どんな彼氏を連れて来ても同じだと思ってたりしてた。それが、びっくり!今の理不尽な彼氏が絶対に気に入られる訳がない。あり得ないと思ってたら、父と滅茶苦茶気が合って、家に連れて来た日にいきなり泊まりなさいとか言い出した。母親にも気に入られて褒めちぎってた。とにかく大食い。母の手料理を美味しい!美味しいとおかわりしまくり。それが決め手になったかも知れない。単なる大食いなのに・・・。


父とは意気投合して二人で近くのスーパー銭湯に行った。二人で酔っ払ったから母と一緒に来いと連絡があった。仕方がないから迎えに行くと電話に出ない。お迎えだけのつもりが中に入ることになった。二人を探さなきゃいけない。探してたらなかなか見つからなかったら、母がもしかしたらカラオケとかにいるのかもと言い出した。


そう。父は恐怖のマイウェイ男だった。カラオケの受付に行ったら、父の名前が書いてあった。部屋に行くと浴衣姿で仲良く肩を組んでマイウェイを熱唱していた酔っ払いがいた。父と彼氏だ。二人とも、とにかく声がデカい。だから連絡しても出なかったと思った。父が彼氏に大学はどこだと聞いた。酔っ払いの彼氏が早稲田って答えた。私が一番びっくりした。そう。彼氏の出身大学を知らなかった。と言うより、出会いが出会いなので彼氏は高卒がレベルの低い大学とかかなって思ってた。悪いから自分から聞かないでいた。学部はって聞くと、彼氏は政経って答えた。こいつが政経って思った。嫌な予感がした。父親の出身大学は早稲田で、それも学部は政経だった。この酔っ払い二人は先輩後輩になるのかって思っていたら、父からの命令で、早稲田の応援歌を入れろと指示があった。カラオケで早稲田の応援歌のイントロが流れると二人は有頂天で都の西北と始まった。もう、父は超ご機嫌モード。父が頼むから娘を捨てないでくれ。娘の悪いところは家族がフォローする。だから捨てないでくれとか言い出す始末だ。私は一人娘。婿養子をと父親が考えているのは知ってた。でも、今は少子化。一人っ子も多い。婿養子なら次男とか三男でないと難しい。ただ、彼氏は次男だった。もう、父はアクセル全開だ。いきなり家族風呂に行こうと言い出した。母も私も恥ずかしいから嫌だと言ったのに、父の暴走は止まらない。それに母は絶対に父に逆らわない。だから父に押し切られた。貸切露天風呂は結構広かった。父の背中を流す彼氏に父は大喜び。四人でお風呂に入ると、突然父が結婚式はいつにするんだと寝ぼけたことを言い出した。私が何を言い出すのと答えると、彼氏が来年の六月にしようと思っていますと返事をした。父がそうか。半年先か、もっと早くてもいいと言うと、彼氏は六月の花嫁にしたいんですと嬉しそうに言った。私がまだつき合って半年も経ってない。それに出身大学もさっき聞いた関係。あり得ないと言った。父が怒って親不孝者。それにこんないい彼氏はなかなかいない。他の女にいつ取られるか心配じゃないのか。そう父が迫ってきた。彼氏とつき合って半年。つき合ってから直ぐに手を繋いでキスをした。そして、この間初エッチしたばかりだ。この年なので初めてじゃなかったけど今までの人にはないパワーがあった。初めての感覚。でも、彼氏に疑惑も抱いた。女の子に慣れてる。そういうことも上手だ。モテるに決まってる。私はそういう人が苦手だった。どちらかというと嫌いだったと思う。その反面、一度彼に抱かれたら、女の子ならきっと離れることが出来なくなる。そう思ったりもしてた。実際に私もそうだと思った。自分が女なんだと初めて自覚した瞬間を彼氏に与えられた気がした。


彼氏との馴れ初めはまだ今度話すとして、彼氏の束縛は凄かった。自分意外の男とは話すな。服装や髪形、下着まで指定する徹底ぶりだった。どうしてこんな人を好きになったんだろう。でも一緒にいると落ち着く。不思議な感覚だった。


髪をポニーテールにしてミニのフレアーで家で拓斗を待っていた。車のエンジン音が近づいてきたので家の前に出た。彼氏がドアの開け閉めはしてくれたりマメなところもあった。


大音量の洋楽に合わせて大声で歌っているけど英語がデタラメなのが分かる。私の大学は東京外語大で英文科卒で留学もしていたこともあり英語には自信があったので滅茶苦茶な英語だと直ぐに分かる。


大声で歌いながらたまにイタズラっぽくスカートに中に手を入れたり胸を触ったりして満面の笑みを浮かべる。その笑顔はまるで少年のようだ。なんでこんなことされて平気な自分がいるんだろう。そんな女じゃないと思ってたけど今の私が本当の私だと最近思うようになった。


西湘バイパスを抜けて最初のコンビニに入った。


~ 続く ~

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