ハプニング☆ラブストーリー

前田渉

第1話 満員電車

暑い。朝六時なのに寒い。とにかく暑い。そう言いながら缶コーヒーを飲んでた。


高校の時は結構勉強をして希望の大学に受かった。第一希望の大学で建築学科だった。父親がそれなりに有名な一級建築士で事務所を開いている。僕も建築には興味があったけど個人事務所よりも大手ゼネコンの設計に入って楽しもうとか考えてた。


最初の夏休み。海の家でバイトをして軟派しまくりで楽しい夏を満喫するつもりだった。しかし、父に頼まれて知り合いの工務店の工事現場で一週間だけトラックの誘導をして欲しいということだった。


バイト代は弾むらしい。滅茶苦茶嫌だったけどお金の誘惑に負けた。時間も最低だった。バイトは深夜から朝の七時までだ。


工事現場の近くに中高一貫教育の女子高があったが夏休みなので誰も歩いていなかった。部活で夏休みに学校に来る生徒がいるような校風ではなかった。


美人で可愛くて大人しくて色が白い。そんなイメージがある清楚な学校だった。ルーズソックスじゃなくてハイソックス。それがまた可愛い。


丘の上に学校があって坂の下が工事現場。月曜日から金曜日でいいという約束でバイトを始めた。田中工務店の作業着を来てバイトをした。


六時半になって明るくなってきた。缶コーヒーをゴミ箱に捨てに行って自動販売機から道路に出た瞬間自転車にぶつかった。


道路に倒れた自転車。倒れこんだのは女の子だった。「大丈夫ですか」そう倒れこんでた僕を覗きこむ心配そうな表情。可愛らしい女の子だという印象を受けた。「大丈夫」そう僕は答えた。坂を登っていく自転車。制服は今どき珍しいセーラー服。そしてスカートが御嬢さん学校の割には意外に短かった。この辺では可愛い制服で有名だった。確か母親もこの学校だったと思う。


次の日も彼女が来ないか楽しみにしてた。そろそろバイトが終わる時間だ。昨日はたまたまだったと帰る準備をしていたら「おはようございます」女の子の声がした。振り向いたら昨日の女の子だった。水曜日も挨拶を交わした。木曜日にハプニングがあった。挨拶をして通り過ぎる女の子を見てる時に強風が吹いた。神風だった。立ちながら自転車に乗っていたスカートが風で捲れあがってしまった。イチゴ模様だった。彼女は振り向いた。僕が見ているのが分かってしまった。目が合ってしまったのだ。バツが悪かった。


次の日も彼女にもあったけど挨拶はなかった。顔が真っ赤なのが分かった。それが金曜日で二度と彼女に会うことはなかった。


九月になって母親と一緒に親戚の家に行くことになった。正直乗り気じゃなかったけど荷物持ちを頼まれて断れなかった。平日の朝の電車は満員だった。大学の授業はまだ始まらない時期だったけど高校生で溢れてる車内を見ると新学期が始まってるのが分かった。


満員電車で幸い母と僕は座れた。僕が入り口の一番端。その隣が母だ。僕の前には女子高生が立っていた。母親が自慢げに私の卒業した高校だと言った。可愛い制服でしょうとか言い出した。目の前の女の子を見てびっくりした。自転車でぶつかった女の子だった。彼女も僕に気がついたようで軽く会釈をした。


その時電車が急ブレーキをかけた。その勢いで彼女が反転して僕の膝の上に座ってしまった。そしてそのまま立ち上がれなくなってしまった。真っ赤な顔でごめんなさいと何度もいう彼女。立とうと頑張っても立てない状況だった。隣の母は大笑いしてる。本当にデリカシーがない母親だ。「よかったわね勇気」「こんなに可愛い女の子でよかったわね」とまた大笑いしてる。


快速特急だったから当分次の駅まで止まらない。だからこのままの時間が続いた。それでも短い時間のはずが凄く長い時間に思えた。やっと駅について車内も空いてきた。母と僕に何度も謝る彼女。次の駅で降りて行った。


それから暫くしてバイトをした工務店の社長から母に電話が入った。


~ 続く ~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハプニング☆ラブストーリー 前田渉 @wataru1610

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る