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ちびまるフォイ

ほほぅ、結果が出る前にその服か

「あの世に支店を出します!!」



会社の命運をかけたプロジェクト発表会で社長は切り出した。

これにはスタッフも目が点になった。


「いいですか、すでに現実世界は衣料過多。

 ファストファッションが好まれる衣料戦国時代。

 これ以上、オシャレ激戦区に店を出しても見返りは薄い!!」


真正面に映し出されるスクリーンにはプレゼン用のデータが並ぶ。

データをいくら並べたところで、画面内に映りこんでいる

「地獄絵図」と「支店」が両立しているアンバランスなところに目が行く。


「で、あの世に出店すれば、そこはもう手つかずのブルーオーシャン!

 あんな白装束くらいしかないオシャレ開発途上エリア!

 支店を出せばまちがいなく大成功します!」


「でも、あの世ってお金使えるんですか……?」


「輪廻ローンが使えるので来世で回収できます」


スクリーンにはオシャレになった亡者たちが、

フラペチーノ飲んでるナウいヤングなイメージ画像に切り替わる。


「さぁ、みなさん! 社運をかけたこのプロジェクト、成功させましょう!!」


「「「 おおーー! 」」」


かくして、この世では初めて。あの世でも初めて支店出店の運びとなった。

デザイナーたちはあの世でも浮かない服装に頭をなやませた。


「ベースカラーは白がいいよね」

「あの三角巾ってダサくない?」

「シースルー入れたらよくない?」


連日の服会議の結果、支店と同時にあの世用の服も完成した。


「では、まずはプレオープンして様子を見ましょうか。

 じゃあちょっと死んできます」


高速道路に向かうと朧車に乗ってあの世へひとっ飛び。

いまやアプリがあればあの世もこの世の境界線などないのだ。


「ジゴクロ1号店! プレオープンでーーす!!」


意気揚々とオープンすると、あっという間に客が集まった。

社長が見込んだとおりにあの世はオシャレ欠乏症になっていた。


その後しばらくして、社長は現実世界に戻ってきた。


「社長、どうでしたか!」

「支店の売れ行きは!?」


「ああ、そうね……」


社長は親指をびしっと立てた。


「ダメだった……」


そして、その親指を思い切り下に向けた。


「服そのもののオシャレはすごくよかったのよ。

 みんな嬉しそうだったし。立地もあの世の玄関前で最高。

 でも、問題は強度だったの」


「強度……?」


「とくに地獄なんかじゃいろいろな罰があるでしょう。

 うちの出している服じゃとても耐えられないのよ」


「そんな! あれ以上頑丈にすると採算が合いません!」

「私たちはオシャレな服を提供するのであって鎧じゃありません!」


まさに究極の選択が迫られていた。

悩んだ末に社長は結論を出した。


「うちの服は……天国行きの人たちだけをターゲットにします」


「「 えっ!? 」」


「みんなの言いたいことはわかるわ。

 たしかに天国行きよりも地獄行きの人数の方が多い。

 より多くの数を売るためには地獄ターゲットの方がいいとね」


「だったらどうして……」


「天国は地獄よりもずっと平和よ。だから生地も問題ない。

 地獄の余裕のない人たちに売るよりも、

 天国に住まう人たちをターゲットにしたほうがいい!」


「たしかに……天国なら何をやることないからオシャレにハマりそう!」

「それに、他の人との差別化をしたくなる環境だし!」

「社長! 天国の人たちをターゲットにいきましょう!!」


「みんな、ありがとう!!」


プレオープンでの反省を生かしたスタッフたちは、

より天国の幸せ者に受け入れられるようなエレガントかつとれんでぃなデザインの服をそろえた。


あの世のスタッフも完璧な接客マナーをいちから叩き込み、

展示の方法も社長自らこだわった作りにした。


完璧な布陣を整え、ついにジゴクロあの世前支店は開店した。


反省を生かしたかいあって、

天国行きを確信した亡者たちはこぞって店を訪れてくれた。


「やりましたね、社長!」

「ええ! 大成功よ!!」


スタッフは大満足でこの世へと戻っていった。

しばらくして、感謝状が社長のもとに届いた。




『ジゴクロさんにぜひお礼がしたくてお手紙を送りました。


 あなたが高級志向の服をたくさんそろえてくれたおかげで

 最後の審判も見ただけで不謹慎を理由に

 あっという間に審判を進められて効率的になりました。


 本当に感謝しかありません。ありがとうございます。


                   閻魔大王』



ジゴクロ支店が開店してからというもの、

天国行きを決めた亡者は1人もいなくなったという。

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