第5話始まりの街ヤマト 2

 

 街に入ると目の前には、ヨーロッパの街並みを思わせる石畳みの道と美しい建物が建ち並んでいた。

街は活気にあふれ、二足歩行の様々な種族が、笑い合い話しをしながら歩いているが、不思議な事に車や乗り物は見つからなかった。

 案内人の猫耳のスーツ姿の女性は、孝太郎と凛に振り返って説明を始めた。

 「始まりの街ヤマトにようこそ。私は、ミーヤと言います。種族は猫人族になります。この街は、あなた方が住まわれていた地表の下、つまり地球の中にある街になります。成り立ちや歴史については、これから学ばれると思いますが、あなた方の地表の世界より遥かに進んだ世界になります。まず、入国審査のときのディスプレイを思い出して下さい。それをイメージして目の前の空間を指でクリックして下さい。」

 二人は言われたとおり空間を指でクリックした。

 目の前に透明な微細に発光するディスプレイが現れた。

 「これでいいのですか。」

 「ディスプレイを確認してください。」

 言われるがままディスプレイを確認すると、まず自分の名前、歳、人族、10,000ポイントと表示されていた。

 「簡単に説明させていただきます。」

 「まずポイントについてです。あなた方は、入国審査を通過したことで、地表の民からアガルタ神国の民になりました。ポイントとは、あなた方の世界でいう給料と同じです。神国では、民に毎月10,000ポイントが与えられます。それ以上のポイントは働いて稼ぐ事になります。必要な物は、ポイントでディスプレイなどにより購入してください。」

 「次に本を開くようにディスプレイをスライドさせてください。」

 スライドさせると街の全体図が現れた。

 「この図は、ヤマトの地図になります。街の真ん中に表示されているのは、世界樹になります。」

 ヤマトの街は、世界樹を中心に円形状に形作られたポリスと呼ばれる都市を形成していた。

 「お二人は、入国審査を済まされ戸籍はすでに作られております。しかし住居やこれからの生活など相談が必要でしょうから、今から役所に行かれてください。役所は、世界樹の袂にございます。地図を指で広げて拡大してください。」

 地図を拡大したところ、役所が表示され入口付近に魔法陣の印が付いていた。

 「その印を指でクリックすれば、役所に転移します。役所に行かれてこれからのことをご相談してください。私は、これで案内を終了させていただきます。ご不安でしょうが、これからのお二人の未来が良きものになりますように。」

 案内人のミーヤは、一礼するとそのまま転移して立ち去った。

 残された孝太郎と凛は、言われたとおり印をクリックした。


 孝太郎と凛は、教会の形をした役所の正面玄関前に転移されてきた。

 「凛、行こうか。」

 二人は、役所に入ると小人族のスーツ姿の少女が二人の前に歩いて来た。

 「よ、ようこそ。う、受付のライカと言います。久しぶりの来訪者なので。なんか、すんません。」

 ライカは、二人を見上げ、恥ずかしげにペコリと頭を下げた。

 凛は、クスッと笑った。

 「望月孝太郎です。よろしくお願いします。」

 「望月凛です。お願いします。」

 二人は、軽く会釈をした。

 「私達は、この街に初めて来ました。何もかも分からないことだらけでして。それで相談に来ました。」

 「分かりました。ではこのディスプレイに二人とも手をかざしてください。」

 目の前にディスプレイが現れ、二人は掌をかざした。

 『認証しました。』

 機械音が流れてきた。

 「お二人とも初めての方ですね。ではご案内しますので後について来て下さい。」

 二人は、ソファーが置かれた小部屋にとうされた。

 「お座り下さい。」

 「お二方とも地上からの来訪者になります。入国が認められアガルタの民になりましたが、文明にかなりの開きがあります。それは生涯かけても決して埋まらない知識の開きになります。」

 孝太郎と凛は、素直に頷く。

 「そこで提案があります。このままお住まいとお仕事を紹介しても構いませんが、このままでは、あまりいいお仕事はありません。お二人でアガルタに来られた事を推察すると、何か目的があるのでしょう。どうです。」

 二人は、思考を読まれたと思い警戒した。

 「ご心配いりません。私達は人の心が読める訳ではありません。お二方の張り詰めた態度と身綺麗な格好から、漂流者ではなく、自ら望んでこられた方と思ったまでです。」

 孝太郎と凛は、自分達がすごく張り詰め緊張していたことを今更ながら気付かされた。

 「すみません。そんな表情をしていましたか。実は、私達親子は、人を探しに来ています。推測ですが、多分、その人はここアガルタにいると思っています。出来ればアガルタにある街々をくまなく探したいと考えています。」

 孝太郎は、思い切って打ち明けてみた。

 「そうですか。アガルタは幾千の種族がポリスと呼ばれる都市を形成し、それぞれの文化と進化をとげています。ポリス間を移動するにはゲートを通過することになり、費用も掛かります。アガルタの民であれば毎月一定の給金が振り込まれますが、そんなものでは足りません。無闇やたらに探し回るのは得策ではありません。ここは一度腰を据えて情報を集められてはどうでしょう。」

 孝太郎は、凛を一度見て頷き、ライカに向き直った。

 「わかりました。それではどうすればいいでしょうか。」

 「まず知識は何よりも必要になると思います。知識を得てから、お父様には適正を調べた後、仕事の斡旋をします。娘さんの凛さんも知識を得た後、そのお年ですので学園に行かれることをお勧めします。」

 「その、知識を得るにはどうればいいのでしょう。」

 「お二人には、1か月間、カプセルに入ってもらいます。費用は、8,000ポイント掛かりますが、入国の際、10,000ポイント得ているでしょうから、十分大丈夫でしょう。」

 「カプセルとは?」

 「ご心配いりません。カプセル内では生命維持に必要なものは満ち足りていますし、脳に直接、データをインストールしていきますので脳のキャパに合わせて十分な学習が可能です。決して洗脳ではありません。今の意識を保ったまま必要な知識だけを得る事ができます。」

 「それにこれからの環境に合わせた身体の調整が行われます。それと大事な事ですが、入国の際、ギフトのことを言われたかもしれません。ギフトはこのアガルタの民すべてが持っているものではありません。一割に満たない方のみが所持されています。その扱いは、個人ごとに違いがありますのでご自分で調べて下さい。」

 「よろしいですか。」

 孝太郎と凛は、互いにカプセルに入ることを確認し頷いた。

 「お願いします。」

 「ではお二人とも早速カプセルに入りますか。」

 「はい。」

 ライカは、返事を確認するとカプセルの場所に着いてくるように二人を促した。






 


 


 






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11度目の大災 ゆきぐも @yukicoco

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