第4話 始まりの街ヤマト 1

 そこは真っ白い空間だけが果てしなく広がっていた。だが閉塞感はなく、何かに包まれた安心感が感じられた。

 すると上空から地面に向け、一筋の光の柱が舞い降り、光の粒となり霧散した。

 そこに二人の親子が、立ち尽くし残されていた。

 孝太郎と凛である。

 しばらく二人は、自分達の置かれた状況が分からず、手を繋いだまま立ち尽くしていた。

 「凛、大丈夫か。」

 「うん、お父さん、大丈夫。」

 互いの無事を確認し、少し心に余裕が生まれていた。孝太郎は、凛が一人で立っていることに驚きの顔をした。

 「凛、一人で立てているが、本当に大丈夫か。」

 「お父さん、私、苦しくないし、右手右足が動くし、痺れてない。なんでなの?私達、死んでしまったの?ここ真っ白いし。」

 凛は、自分達が死んでしまったのではないかと疑問を持ち始めた。しかし母に抱かれているような安心感も感じていた。

 「ルナ、大丈夫?」

 凛は、自分の胸元にいるはずのルナにそっと話しかけた。ルナは、翠色の淡い光を灯らせ一緒にいることを知らせた。


 孝太郎と凛が、この場所に着いてからどれくらいの時間が経ったのだろうか。それほど時間が経っていないかもしれない。

 真っ白いだけの世界は、自分達の生死や上下感覚さえ分からなくさせていた。ただ空間に漂っている感覚だけである。

 突然、空間に機械音が流れてきたと思えば、目の前に光の柱が立ち上り、空間に一枚のディスプレイが現れた。光の柱は次第に人の姿を形どり始めた。

 『お二方の入国審査は許可されました。』

 機械音は、しっかりとした言葉として聞こえにるようになり、優しげで品のある50歳くらいの女性が孝太郎と凛に姿を見せた。

 「あなた方の正式な入国許可が下りました。」

 「私達は、何も手続きしていないのですが、入国できるのですか。」

 孝太郎は、入国して問題ないのか質問をした。

 「あなた方は、我々の審査において、適正があると判断され入国の許可がおりました。」

 「私と凛は、何もしていませんが?」

 「いいえ、審査を受けております。この空間は、入国に値しない者を選別します。暗い魂の者が、たがいに引かれあい集まって行くように、この世界に相容れない者は、空間に耐えられず発狂するか、弾き出されてしまいます。あなた方は、こうして何事もなく、ここにおられます。問題なく審査を通過しています。」

 「もう一つ質問していいですか。」

 「私と凛は、死んだのですか?ここにいる凛は、原因不明の病で右手右足が痺れ動かないはずですが、今こうして立つこともでき、歩くことも出来ています。分かるのであれば教えて頂きたい。」

 孝太郎は、医師として娘の病の原因さえ分からず、治療が出来ないことを悔やんでいた。しかし今ここでは普通に動くことが出来ている。ここを離れたらまた元に戻るのではないかと一抹の不安が拭えないでいた。

 「あなた方は死んでなどおりません。あなたの娘、凛さんといいましたか。凛さんには、この地の血が身体半分に流れているのを強く感じ取れます。あなたでなければ奥様がこの地の出身者であったものと考えられます。」

 一呼吸おき、女性は続ける。

 「この地の血が身体に流れているのであれば、神樹様のご加護が必要だが、地表で生まれ育ったことで、今までご加護が受けられず、成長と共に病として現れたのではないかと思われます。今はご加護が身体に宿ったことから心配はいりません。」

 そして女性は、凛を見つめ微笑んで一言添えた。

 「凛さんには、導き手がお側にいますもの。心配いりません。」


 女性は、再度、孝太郎と凛に向き直り、毅然とした姿で手続きを始めた。

 「ではこのディスプレイに一人づつ掌をかざしてください。」

 孝太郎が先に手をかざすと、ディスプレイは青色に発光し、しばらくすると光は消えていった。

 「次は、凛さん。よろしいですか。」

 凛は、前に進み出ると、同じくディスプレイに掌をかざした。ディスプレイは、翠色に輝きだし凛を包むと消えて行った。

 「これで入国手続きは終了です。凛さんには、特別なギフトがあるようです。それが何なのか私には分かりません。お父様は治癒のギフトがあるようです。」

 「ギフトとは何なのですか。」

 「ここは入国審査の空間になりますので、これから行かれる、始まりの街ヤマトで確認してください。人族以外に様々な種族が住んでいます。新たな係員が案内しますのでお待ち下さい。」


 突然、目の前の真っ白な空間が消失すると、頭上には澄み渡る青空が広がっており、後方には見渡す限りの様々な果実や野菜、穀物を育てている農園が区間ごとに整然と並んでいた。

 そして目前には、直径50キロメートルに及ぶ半球状の特殊な素材で包まれた始まりの街ヤマトが姿を見せた。

 孝太郎と凛は、初めて見る世界に言葉を発することを忘れ、ただ立ち尽くしていた。

 街の外壁の一部が開くと、中から猫耳のスーツ姿の女性が現れた。

 「望月孝太郎さんと望月凛さんですね。」

 「はい。」

 「それではご案内します。私の後についてきてください。」

 孝太郎と凛は、その女性に案内されるがまま後に続いて街に入って行った。


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