第21話 油断
そもそも、ひなたにも油断があった。
普段、セックス をしていた場所はそれぞれの男に連れられて行っていた訳だが、それぞれきめられていた。
そして、そこに一人で行く事などなかった。
書庫は蒋平との場所ではなかったが、蒋平はひなたが男にそこで抱かれていた事を知っていた。
考えてみれば、今日みたいな事が今まで無かった事が不思議なのだ。
それでも、うまく保たれていた。それはひなたがそれぞれの男と公平にしていたからこそできた不文律なのだ。
歯車が狂い始めている。
それにちゃんと気がついていたら、これからの事も気づけたのかもしれない。
ゆいが待ち合わせ場所を変えた事を不審に思えたのかもしれない。
第2保健室の扉の鍵は開いていた。
「ゆい、お待たせ」
人の気配はするが返事はない。
ベッドを囲むカーテンも閉めきっていて、それはゆいらしいイタズラと言えばそうなのだけど、今日のひなたは少しイラついた。
「ゆい。バレバレだよ」
ベッドの周りをぐるりとまわり、カーテンを開けようとしたときだった。
「遅かったわね、澤村さん」
そこに立っていたのは、キメラだった。
あたらしい綻びがみつかる。
「待ってたわよ。まあ、本当に澤村さんが来たのには少し驚いているけど」
状況が全く理解できない。ただ、あまり良い状況ではないという事だけ身体中が感じている。
「あの、すみません。えっと」
そもそも、なぜキメラがいるのか。ゆいはどこにいるのか。
そして、ゆいとキメラは何か関係しているのか。
「ごめんなさい、勝手に入って。私、友達と約束があって」
「ゆいでしょ?知ってるわ、とりあえずこっちに座って」
キメラはひなたの肩に優しく手を添えると、そのままそこにある椅子に座らせた。
ひなたは黙ってそれに従う。
いや、驚いているのだ。
“ゆい。って言った?”
確かにそう言った。滅多に学校に来ないキメラがゆいの事を呼び捨てにした。
“ガチャ”
「え?」
そんな異変に気がついたときはすでに遅かった。
ひなたは、 手錠で椅子に縛り付けられた。
「あの?これって?」
しかし、キメラはそれ以上何をするわけでも無く立ち上がった。
「あなたが、あの子の“パートナー”とはね。ちょっ意外だったわ」
そう言いながら、ベッドのカーテンを開ける。
そこには、ゆいがいた。
「私のゆいを独り占めしないでよ?」
ゆいは、こちらを見ないで横たわっている。
anyway 枡田 欠片(ますだ かけら) @kakela
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