第20話 蒋平

 図書室を後にしたひなたは、そのままトイレに駆け込んで自分の脚を拭いた。


 とうに汚れは落ちていたが、それでも何度も拭いた。


 あんな奴に抱かれてたなんて。


 そんな汚れも何とか拭い去りたかった。


 蒋平の事は嫌いではなかった。特別セックス が上手かった訳ではないが、した後もそれほど不満ではなかった。


 普段、ひなたは自分から男を選び誘っていたのだが、それは自分に都合の良い男を無意識に選んでいた結果であって、どちらかと言うと“チャラい”男と“軽い”付き合いを前提にしていた。


 そんな男は探さなくも簡単に見つけられたし、後はその中でも特に気にいる男を選ぶだけだった。


 それは、特に悪気があった訳でも無く、ひなた自身そう言う男がタイプなのだと思ってもいた。


 蒋平とは、誘ってきたのは蒋平の方だった。


『澤村さん。やらせてくれない?』


 ハッキリ言って意外だった。蒋平がそんな事を言うのも、それを自分が拒まなかった事も。


『俺、澤村さんみたいな人めちゃくちゃタイプなんだよ。顔とかスタイルとか』


 屈託のない笑顔でそう言われると、なんだか心を射抜かれた気持ちになった。


『やばいスゲー幸せ』


 誘われるままに、その日にした。あっという間に終わってしまったが、それでもそんな風に言われると悪い気はしなかった。


 もしかしたら、付き合うかもしれないと心の何処かで思っていたけど、その後セックス はするが、それ以上の事は無かった。


 互いに互いの欲求を満たしているだけの関係を責めるつもりも無かったが、責められる筋合いもない。蒋平ともそう言う付き合いなのだと簡単に割り切れた。


 だから、やっぱり意外だった。まさか、あんな事を言うなんて、まさかあんな事をするなんて。


 アソコに先を当てられた時、正直挿れられても仕方ないと思っていた。さんざんヤッた仲なのだから。


 それでも、やっぱり嫌だった。ゆい以外とセックスをする事は正直ありえない。


 だから拒んだ。ゆいの待つ保健室へ早く行きたかった。


 ただ、ひとつだけ頭の中を嫌な考えが過ったのも事実だ。


“ゆいにも、アレがついていれば”


 心の何処かで、ずっと思っていたのかもしれない。それが頭を過った事をゆいは拭い去りたかったのだ。


“ごめんねゆい。ごめんね”


 いつの間にか、涙が出ていた。ゆいに会いたい気持ちはあるが、今は顔が見れない。申し訳なくて会いにいけない。


 その時、スマホにメッセージが表示される。


「まだですか」


 それを見て、また涙が溢れる。会いたい気持ちが溢れる。


 あやまろう、一瞬でもそんなやましい気持ちになった事。あやまって精一杯愛し合おう。


 ひなたはトイレを出て、第2保健室へと向かった。




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