重厚でコアな世界観と、比肩する美しい言葉づかいに惹かれて

 この作品の真の魅力は一体、どこにあるのか。

 もちろん戦車と同化した少女というキャラクターの造形の斬新さには目を見張るものがあったし、パンク・ロックな世界観にも大いに食指を動かされる。冒頭のバトルシーンから読者を作品の世界へ引き込む掴みの上手さ、回想によって自然と出会いの物語へ立ち返らせる手慣れた展開の技術にも大変感銘を受けた。
 しかし、これらの要素が持つ魅力はカクヨムの他の多くの作品にも当てはまるものだろう。個性的な登場人物、波乱万丈のストーリー、練り込まれた舞台設定と、優れたコンテンツとしての可能性を秘めた作品にはこれまで数多く出会ってきた。

 だからこそ、私は「一本の小説として」、この作品の魅力を一手に支えている文章の美しさを評価したい。

 僭越ながら、一介の文学徒として、名だたる文豪から現代の文壇を彩る新進気鋭の作家に至るまで、プロの書く小説を幾つも読んできた。彼らの作品が心に響くのは物語が持つ魅力を言葉への細やかなこだわりが最大限に引き出しているからではないかと、私は思う。

 この作品には熱い戦闘描写を可能にする滑らかな文章運びがある。キャラクターの個性を引き出すウィットに富んだ台詞回しがある。パンクなバックグラウンドを浮き彫りにする言葉選びがある。

 恥ずかしながら氏の作品を読むのは初めてだったが、一人の創作者としてもマンガにアニメ、映画と映像メディアが隆盛を誇る現代にあって、あえて小説として世界を表現する面白さを改めて教えて貰ったように思う。

 ……勢いのままに断定調で書いてしまいました。上から目線で大変申し訳ありません。このレビューを読んだ一人でも多くの方に、この作品の、ひいては氏の作品の魅力が伝わることを祈ります。
 素敵な読書体験をありがとうございました!〔縁〕

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