異界の支配者 ゴブリン
”最果ての民は教えてくれた。我々は皆、起源を同じくするのだと。深く深い底知れぬ場所で、繋がっているのだと。干乾びた古老の語り手の、強く尊い歌謡いを、けれど私は信じなどしなかった。それでも覚えている。海を越え丘を越え、この世の果てさえ越えたと謳う音色を、露ほどの疑いもなく信仰する彼らと同じ心が、遠い遠い時代の種火が、私のどこかに燻っている”
――『ハイヒューマンの残滓』カストル・メルへフト
さて、最終回となる今回は、これまで何度も取り上げてきた
彼らが自称する、その名はヒューマン。つまるところ、人族である。
ここからは我々と彼らとの混同を避けるため、蔑称にも近い名ではあるが、他種族からの彼らの呼称、
異界人族の祖先にあたる種族はおよそ700万年前、火を手に入れた龍の生息域拡大に追われる形で生誕の地であるであるアイデエラ大陸を後にする。
四肢動物の毛皮を被り、その匂いと外見とで狩りの対象の警戒を和らげる
更なる龍の勢力拡大と時期を同じくして起きた四肢生物の大絶滅は、人族にとって危機であるととともに、淘汰を生き抜くために進化を促され、他種を蹴落とす契機でもあった。
そしてちょうどこの頃。彼らの歴史を注意深く読み解くと、かつて存在していたもう一つの人族の姿が見えてくる。
ハイヒューマン。異界人族よりも大型で、身体能力に優れる異界人族から分岐した新人族である。
人族が魔力濃度の薄い高山地域へと追いやられる中、自然と生態的立ち位置の被る新人族と相争うこととなる。そして、より高地に適応できた人族が、この勝負を制したのである。
熾烈を極めた二種間の生存競争は、その神話から窺い知ることができる。
先に述べた「
闘争に敗れた新人族は、しかし決して死に絶えたわけではない。
龍のいない高地に生を求めた人族とは異なる新天地へと、新人族は移住を遂げていたのである。
石器時代以前の異界と我々の世界との接続は遥かに強く、異界からの漂着遺物は現在よりも非常に多かったことが確認されている。
そしてそれ以上に、我々の世界から異世界へと漂着する物が多かったのである。
さらに時代を遡れば、異界よりの漂着物はあらゆる遺構から姿を消す。現在ではほぼ異世界から此世界への一方通行である両世界の接続が、遥か古代においては此世界から異世界への一方通行であったことが確認されている。
本来、異世界には六肢生物のみが生息していた。
現在より遥かに漂着の多かった時代に持ち込まれた多種の四肢生物が発展し、現在見られる四肢と六肢の混在する奇妙な世界が形作られたのである。
世界間の通行が逆転したとき、原始的な原生生物のみの環境で橋頭保を築けた六肢世界の四肢生物と異なり、四肢世界においては六肢生物はその居場所を確保することができなかった。
しかし、異なる環境で特異な進化を遂げた四肢生物が逆輸入される形で戻ってきたとき、彼らはこの世界に大きな影響を与えることとなる。
今から十万年前、北アフリカ東部に流れ着いたその新人類の一団が、如何なる人生を送ったかは知る由もない。
しかし、異世界の厳しい環境に適応した彼らをもってしても、想像を絶する体験であったことは間違いない。原始生活に立ち戻った彼らはその後、幾世代にも渡り厳しい生存競争に晒され続け、生き残り続けた。
知識も、道具も、異世界において得たその叡智の結晶のすべてを失ってなお、地球の緩慢な進化から見れば目まぐるしいほどの進化の速度でもって、異界からの漂着者たちは戦い抜いたのである。
そしてついには、ジャワ原人が、北京原人が、ネアンデルタール人が、この地球上で進化したあらゆる猿人たちが成し得なかった大事業を成し遂げる。
新天地における新人族の繁栄は、我々の知る通り、異界における人族の繁栄に勝るとも劣らない。
人族の支配する世界を、
🈕🈑異世界生きもの探訪|スペシャル🈞 狂フラフープ @berserkhoop
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