様々な歴史上の人物が織りなす物語は、さほど珍しくないものの、平安時代中期を舞台に、誰か一人だけを大暴れさせない物語は、私の知る中では唯一無二でした。
アクションシーン…というよりも、立ち回りといった方が想像しやすい文体は、この時代設定とぴたりと一致しているように感じます。
そして、その描写。
これが架空のキャラクターたちであったならば、チートの一言で済まされてしまうのですが、歴史上の人物となれば話は別。伝説に残る強さを表現していると感じられる迫力です。
しかし、それでも名前に対し、作者の技量が劣っているならばチープな描写になってしまうのですが、豚ドンさんの技量は、歴史上の――しかも伝説上の人物といっていい方々を生き生きと再現できる域に達しています。
重く迫力のある雰囲気、しかし切れ味の良い文章は、まるで読者をタイムスリップさせてしまったのではないかと思う程、引き込むはずです。
日本刀の歴史を辿ると、その考案者に、この「異聞平安怪奇譚」の主要人物の一人である平将門の名前があるのでした。
異聞平安怪奇譚――物語の日本刀と呼べるものだと感じています。