最後の頁
最初に書いたけれど、日記の最後の頁には貴方にメッセージを書きます。
だけどその前に一つ。
理太郎以外にこの日記を読む方へ。
桜坂理太郎は、私の関わったことに関して一切知りません。このことは明記しておきます。
書いているのはX103年3月19日。
きっと貴方がこれを読むということは、私は死んでいるでしょう。
だから私の本当のことを書きます。
私は藍軍の研究施設で影物の研究をし、影物の知能を上げるような改造を行い被害予想が少ない地域へ流す仕事をしています。一応その研究のリーダーを務めているので私のデスクからは研究員の様子が常に監視ができるようになっていました。
12月の後半に佐々木研究員の様子がおかしいのを感じて紅軍がこの研究を知ったのだと感じました。佐々木研究員は研究員の中で唯一お子さんもいる方だったのでもし紅軍が情報を聞き出すなら彼だろうと思ったからです。
紅軍がここに来るなら12月31日の年末報告会であると確信しました。彼らはおそらくS…私に会いたいはずだから。
この時、私は正直驚きました。紅軍が数年前から影物の進化の原因を調査をしてたのは知っていましたが、こんなに早くここを突き止めるとは予想してなかったからです。少なくともあと2年は持つだろうと思っていました。だから、この作戦を指揮している紅軍の方はすごく優秀なのだろうと思い個人的に調べてみました。極秘案件になっていて調べるのは大変でしたが、表向きは通常任務を行っているというのに実際の紅軍の作戦にはあまり参加されていない中央区第2部隊がそうなのだろうと確信しました。部隊長は篠宮大佐、彼の戦歴を見る限り頭の柔らかい方なのでしょうが私の予想を超える指揮を執るとは考えられませんでした。だから副官の名前を調べました。その人はその優秀さからあえて前には出ず、影の指揮官として動いている方でした。私はきっとこの人がこの作戦を進めているのだと感じました。
名前は、桜坂理太郎。私のこの世で最も愛する貴方でした。
驚いたけど、違和感は感じませんでした。貴方は聡明で頭の回転の早い人だと感じていたから。
この研究がバレてしまっても良いように大した研究資料は残していなかった。姿もほとんど見せない様に徹底しました。私が姿を消せばこの研究所に来ても大事な所は分からず仕舞いで終わる予定でした。あとは製薬会社に戻り貴方にバレない様に生きていけば良いと。
それは…甘い考えでした。
12月30日に藍軍の幹部から
『明日、紅軍がここへ来ることを把握した。藍軍はこの研究室の放棄を決定した。他の職員には知らされていない。君は明日、出勤せずしばらくの間姿を消してくれ。また新しい施設を用意した、表向きは藍軍とは全く関係ない施設だが、ここと同様の設備がある。そこで、新たな影物作り出して藍軍のさらなる貢献を。
一刻も早く政府・紅軍と対立しても問題ないくらいの強力な兵器を。』
という内容の手紙が届いた。
私は、この研究を戦争のために始めたのでは無かった。人類の敵を作れば人類は協力してその敵を倒そうとする。そうすれば戦争はなくなる。だから人類の進化に合わせて倒せないことは無いが手ごわい影物を作ろうと。
それじゃあ、意味がない。
意味がないの。
その手紙を読んだ後、藍軍には何も報告せずに姿を消しました。
何も言わずにいなくなってごめんなさい。
私は死ぬことを決めました。簡単には決められなかった。
怖いし、何より貴方と離れるのなんて嫌だった。貴方が一人で泣いてほしくなかった。
だけど、私がいたら戦争が起きてしまう。
もしかしたら貴方が…人を殺したり、殺されてしまうかもしれない。
そんなのは嫌だった。
ごめんなさい。ずっと嘘をついて。
幸せだった。両親が死んで、ずっと一人だった私に家族になってくださいと言ってくれた貴方が、好きで大好きで。
ずっと、ずっと、愛している理太郎。
勝手に死ぬ私をどうか恨んでください。
桜坂栞
桜坂栞の日記 リーキ @riiiiiki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます