桜坂少佐の報告書

         藍軍で行われた影物改造の研究についての報告


                              X103年 4月27日

               紅軍 中央区第2部隊 作戦参謀 桜坂理太郎少佐


 我々中央区第2部隊によって発見、回収に成功した藍軍で行われた影物の研究・改造・放出ついて報告していく。この報告書は簡易的なものであり、現在詳しい報告書を作成中である。


 X100年から影物の団体行動・役割や組織といったシステムの構築、知能の進化が急激に始まった。中央区第2部隊並びに中央区第1研究室は篠宮正樹大佐の指揮のもとX101年2月から、この影物の進化の原因の調査を開始した。

 影物を捕獲、解析を数百回繰り返し、影物の進化には人為的な手が加えられていることが確認された。(詳細は中央区第1研究室 真中美紀室長の報告を参照)

 そこから我々は影物がどこで発生されているか調査を開始した。その結果、進化した影物は必ず藍軍の重要施設付近や居住区を避けて発生していることを確認した。また、X102年10月に起こった南区の影物の大襲撃では藍軍の被害は報告では紅軍と同規模であったが、医療用品やその他物資の消費量から実際の被害は紅軍の3分の1ほどであった。

 このことから、影物の改造には藍軍が関与しているとされX102年10月本件は第一級極秘案件となった。


 藍軍の研究施設の調査を行い、政府から影物の研究の許可をされている・地下施設の充実・各地区への運搬が用意な藍軍中央区特別研究部隊で影物の改造が行われていると推測。

 内部潜入の結果、件の部隊には政府の提出している研究員の他に20人ほどの研究員が在籍しており19人の研究員の身元が割り出された。しかし、1人の研究員の情報が全く得られず、我々はその人物が影物の改造のリーダー的な存在であると考えた。調査を重ねてもその研究員の情報は全く出てこず、私は研究により死亡した人物の可能性も考えた。


 X102年11月10日。政府未登録の研究員、佐々木浩平の身柄を拘束し取り調べを行った。彼は黙秘を貫いたが、我々が藍軍から彼とその家族の保護とその後の生活の保障を申し出たところ、佐々木は藍軍で自身の研究を話し始めた。彼ら政府未登録の研究員たちは家族にも自信の仕事内容を話してはならないという徹底的な機密を守り、影物の研究・改造を行っていたとのこと。研究が始まったのはX97年から。研究員は20人であり、中心人物は“S”と呼ばれごく一部の研究員しか姿を見たことがなく佐々木もその人物の年齢・性別も分からないと言った。研究の目的は『世界の平和』、これには佐々木も疑問をもっており多くの研究員も理解できていないらしい。佐々木の取り調べの報告書にも記載したが、これは影物という人類の永遠の敵を作り出し人類同士の争い、つまり戦争を回避するという意味なのではと推測する。(詳しい私の見解はX102年11月15日提出した佐々木浩平の取り調べ報告書を参照)


 X102年12月31日。我々はその日に藍軍中央区特別研究部隊の研究報告会が実施されること突き止め、突入を実施した。現地の指揮は諸墨左之助大尉が行った。突入し、兵士・研究員の鎮圧は成功。だがSは見つからなかった。Sは逃亡したと考えられた。研究施設の中には多くの改造中の影物が発見され決定的な証拠となった。しかし、Sが研究していた資料も痕跡もなにも見つからなかった。拘束した研究員や兵士の取り調べを行った結果、この研究部隊の部隊長であった安藤裕大佐とSの副官のような立場であった森田順平大尉の2名がSと実際に会っていた人物だった。2名の取り調べは難航し、Sの人物像を割り出すのは困難を極めた。今案件の重要度から倫理委員会から自白剤使用の許可が認めれたのはX103年3月であった。自白剤の使用の結果、Sは20代後半の女性で藍軍の幹部クラスからスカウトされた研究員であった。2名はSの本名は知らされておらず、彼女がどういう私生活を送っているのかも知らなかった。また、Sは2名に会うときは必ずマスクと帽子を被っており完全な似顔絵を作ることも出来なかった。その後もSの捜索は難航した。



 X103年3月20日。桜坂栞が自宅で服毒による自殺をした。発見者は夫である桜坂理太郎。彼女の抱えていた日記の最後の頁に自分がSであること、夫は何も知らないという旨が書いてあった。桜坂栞はX102年12月31日から行方不明で私は捜索願を出していた。彼女は幼少期に両親を亡くしており身内は私しかいなかった。私や友人には製薬会社に勤めていると話しており、実際にその製薬会社には彼女の名前が登録されていた。その後の調査でその製薬会社は藍軍が出資している会社であった。日記の内容から桜坂栞は研究の資料を一切、残さず全て自分の脳内に記憶しており探しても見つからなかった。彼女が残したものは上司に書いた事務的な報告書と、その日記だけであった。

 彼女の遺体は火葬されず中央区第1研究室で冷凍保管されることが決定した。日記も回収され解析が行われた。

 影物の改造方法はほぼ解析が終わり方法は解明された。簡単な流れとしては術式を影物脳内に刻み込み人工の影の力を注ぐ。しかし、術式を組んでいたのは桜坂栞であり術式は暗号化され、解析が不可能であった。真中室長の見解だと自分以外の人間に使わせない様にしているとのこと。その見解により、今案件は桜坂栞の死亡もって終結。今後、影物の改造が行われないように桜坂栞の作成した術式の解析は中止された。

 今案件は政府に篠宮大佐から報告され、藍軍の解体も検討されるとのこと。


以上で報告を終了する。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る