その理屈



「ケド人間ノ集落トイエド、ソモソモ人ノ数自体ガカナリ減少シテイルンダ。カツテは90億人イタンダケド、今は分カル範囲デ1万人シカイナイ 」

「・・・・・。随分と減ってしまったんだな」


 なかなかに悲惨なものだ。かつてとはとてもじゃないが、比べ物にならない。


「ダカラ人間ノ集落ナンテイウノハ、ソレ自体カナリ数ガ少ナインダ。ソノ中カラ一番近イ場所デモ、ココカラ・・・ウーン4日程ハカカルカ 」


 そう言いながら、ホログラムの電源らしきものを入れるドクター。そこは念じるだけでつくとか、そういうのはないのか。

 そこのところ、ちょっとがっかりした。


 ともかく、ホログラムは画像らしきものを映しだす。

 それは、家らしきモノが密集しているのを撮ったものだ。ただそれだけではなく、その集落はぐるりと大きな壁に囲われており、なにやら正面には門のようなものも。その画像はおそらく今話している集落のことだろう。なんというか、まるで城塞みたいだ。


 あと壁に映らず、文字通りこの空間に画像を映し出している。それが物凄い新鮮に見える。これはホログラムなのだから、当然だと言われれば終わりだけど。


「その4日って言うのは、徒歩の話か?それとも何か乗り物に乗ればって事か? 」

「イヤ、徒歩ダナ。君ガ乗ッタアノ乗り物ハ、人ガ乗ルニハアマリニモ負荷ガカカリスギル。ソレ以外ノ乗り物デ行コウトシテモ、集落ニ住ム彼等ハ間違イナク警戒スル。ソレニ、私ハ乗り物ヲソモソモ持ッテイナインダヨ 」


 乗り物を持っていないのなら、警戒されるとか言う以前の話では?

 まあ、突っ込むと話が進まないので黙っておく。


「要ハ、君ニハソノ人間ノ作ッタ集落二向カッテホシイ。ソコ二着イテカラ、コレカラドウスルカ考エレバイイ。無論、ココ二留マルトイウ手モアルケド 」


 ふむ。俺は人間が集まっているという集落に行くのに大賛成だ。

何か役立つ情報を得る事もできるだろうし。もし運が良かったら、助力を得ることが出来るかもしれない。

いや、流石にそれは虫のいい話か。


まあ、それだけでなく。

その集落で集まった人間の生き残りが、どのような生活をしているのか気になるというのも無論ある。

それにだ。


「そんなに迷惑ばかりかけていられないよ。だから俺は体の調子が良くなり次第、ここを出るつもりだ 」


「フム、分カッタ。」


 あと、今の俺としてはとても一大事な事があるのだけど。


「ぐうううううううー・・・・・ 」


 あっ。

 喋ろうとしたら、お腹が今の状況を説明をしてくれたな。


「・・・・・缶詰デ悪イケド、食ベルカ?」

「・・・・うん 」


 なんで缶詰なんて持っているんだろう。疑問に思ったけど、今は空腹でそれどころではなかった。











うん。

やはり、缶詰は缶詰だった。この缶詰は実は未来のすごい技術で作られた、凄い缶詰だったとかそういうのは何も無い。本当に、ただの缶詰だった。


 その缶詰の中身と平らげた後。ドクターにいくつか話を聞いた。



 まずは、なぜこんな所に缶詰があるのかと言うこと。

 答えは、たまにここに人間がやって来る事があるかららしい。というのもドクター自身名の知れた医者として、人間の生き残りに知られているらしく(変わり者の機械生命体として)ともかく、時々ここに治療を受けにくるからだそうだ。

 その中でも、栄養失調で来る人や食料目当てで来る人もいるらしく。その時の為に、ささやかな食料をここに置いているのだとか。


本当は缶詰じゃなくて、ちゃんとした食品をあげたいのだとか。しかしこのご時世、そもそもちゃんとした食材が手に入らないらしく。食材が天から落ちてきたりしないのかと嘆いていた。




そして、今聞いているのは。


「ナゼ、機械生命体デアル私ガ人ヲ助ケルノカ、ネ 」


医者の名折れという発言から考えるに、元々は医療を司る機械だったのではないかと踏んでいる。

実際、俺がいた時代でも医療方面もある程度の実用化は進んでいた。


とはいえ、その全てを機械がこなしたわけではない。

そもそも機械は、設定されたマニュアル通りにしか行動に移せないという大きな壁がある。なので当然のことながら、プログラムに設定されていない事態が起これば対処出来ないのだ。

多くの医療関係の仕事が機械に奪われていったが。医者などの患者への適切な判断を求められるような仕事だけは、とって代わられることはなかった。



だが、それは昔の話。

多分今は、そうでもないのだろう。100年という時間の間に、医者という職業が人から奪われていてもなんら不思議はない。



「残念ナガラ、詳シクハ話セナイ。イヤ、話タクナイ。デモ、強イテ言ウノナラ・・・・・ 」


ドクターはそこで一旦言葉を切った。

そして。


「私ナリノ罪滅ボシ、ナノダロウナ 」


電子音声が、小さく響いた。





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未来放浪記 菅原十人 @Karinton

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