理由

「コールドスリープ症候群?何なんだそれは」

「ソレヲ今カラ、説明スルサ。

 具体的ニハ、コールドスリープヲ体験シタ人物ニダケニ起コルモノダ。

 ソノ症状ノ度合イハ、個人差ガアルケド。デモ、ト言う点ダケハ共通シテイルンダヨ。私自身、コールドスリープ症候群の患者ヲ診ルノハ今日ガ初メテナンダケド」

「結構珍しいのか?コールドスリープ症候群とやらは」

「イヤ、『コールドスリープ』ヲ経験シタ人物ナラ例外ナクカカル、モノデハアル。ダガ、ソモソモソノ『コールドスリープ』体験者ハアマリ多クハナイカラナ・・・」

「そういうことか」


 元々、コールドスリープを受けた人そのものがあまりいないから、全体的に見れば珍しい病なのだろう。


「コールドスリープハ、イワユル冬眠ダ。

 ケド、ソモソモ人間ハ冬眠ヲシナインダ。イヤ、ナイトハ言ワナイ。ケド、ソレハ世界的ニ見テ冬眠シタ人トイウ例ハ数エルホドシカナカッタ。・・・・・ケド」


 例があるのだから、それは再現できるはずだとある人間が言った。

 けれど、あくまでそれは理論上の空論である。だからこそ、コールドスリープなんていう技術は永遠に確立しない。


 そう思われていた。

 いや、多くはそう思っていたんだ。


「ソレデモ、アル人間ハソノ試ミヲ成功サセタ。ダケド、ソレハ本来自然ニハ起コラナイモノダ。

 ダカラ、想定シテイナカッタ結果ガデテシマウ。ソレガ、コノ病ノ正体ダ」


 だから、副作用。

 コールドスリープなんていう奇跡の代償が、この病であるということらしい。


「・・・・・・・それは分かったけど、治療方法は何かあるのか?」

「ソンナ、治療方法ナンテイウ堅苦シイモノデハナイヨ。タダ、休メバイインダ」


 ・・・・・それだけ?それだけなのか?

 随分とシンプルな答えである。


「ソレダケ聞ケバ大シタ事ハナイガ、一つ問題ガアル」

「・・・・・? 」


 そうは言われても、特にこれといった心当たりはない。いや、思いつかないの方が正しいのだろう。


「ソモソモ、休ムモナニモ君ハ帰ル場所ガモウナイダロ?ソコガ問題点ナンダ」

「・・・・・あ」


 言われて気がついた。


 当然の事だ。

 今の俺には帰る場所がないんだ。

 まず俺は、そこをどうにかしなければいけない。


 だが、何をどうすればいいと言うのか。それがそもそもの話分からない。洞窟を探すなり、近くの建物を探すぐらいしか思いつかず。

 けど、ここら一帯は文字通り対して何もない場所だ。だからそんな都合よく、一夜を過ごせるような所はないだろう。



 詰んだ。

 運が良かったのか、何だかんだでここまで来れたけどもうここまでか。



「ソコデダ、一ツ提案ガアル。ドウスルカハ、君次第ダケドネ。

 君ノ体調ガ回復スルマデノ間、コノ小屋ニ泊マルトイウノハドウカナ? 」

「・・・・・え? 」


 それは今の俺にとって、ありがたすぎる提案だ。

 俺は生まれて初めて神とやらに感謝した。

 なんで俺が生まれた時代じゃロクな事がなかったというのに、今になって幸運が舞い込んでくるのか。

 そう考えると物凄く複雑だが、ともかく今は感謝あるのみ。


 もちろん、断るという選択肢は俺の中にはない。


 この機械生命体は色々と謎は多いし、良からぬ話も聞いたけど俺を治療してくれたし。

 少なくとも俺は、この機械生命体にそんなに悪い奴ではないと思うのだ。


「・・・・・いいのか? 」

「モチロン」

「・・・・・短い間だろうけど、よろしくお願いします」


 俺はいいながら、精一杯の感謝の気持ちを込めて頭を下げた。


 それを見て、目の前の機械生命体はどう思ったのかはわからない。

 だから、これもただの見間違えかもしれない。けれど俺の目の前で、僅かに微笑んだように見えたのは気のせいだろうか。


「コチラコソ、ヨロシク」













 そうして、医者と名乗る機械生命体と一旦別れて。


「ドウシタ? 」


 俺はここまで送ってきてくれた、機械生命体の所に来た。ちょうど俺がここに来た時、あの地獄の乗り物に乗ろうとしていたようだ。


 ・・・・・一瞬だけ俺は、あの悪夢を思い出してゾッとしてしまった。

 無理矢理に頭に浮かんだ記憶を振り払って、俺は安堵する。


 良かった。

 どうにか間に合ったみたいだ。



 ・・・・というのもだ。

 俺が2人で話している間に、こいつはこの乗り物でどこかに行こうとしていたようなのだ。気づいたら、いなかったので俺はびっくりして追いかけたという訳だ。


 追いかけたと言っても、ゆっくり歩いてきたんだが。

 乗り物の場所が近くて助かった。


「いや、最後にありがとうって言ったこうと思ってな」

「ソウカ」


 俺の言葉を聞くと、さっさと乗り物の中に入っていった。


 言いたかった事は伝えたので、俺はさっきいた小屋に戻ろうと背を向けた時。


「・・・・気ヲツケロヨ。君ヲヨク思ウ奴バカリダト限ラナイカラナ」


 本人なりの忠告なのだろう、それだけ言うと乗り物と共にその場を立ち去った。











 



 で、俺は別れを済ませてこの小屋に戻ってきた。

 とは言えど、することが無いので俺はベッドの上に腰掛けている。

 流石に他人のベッドの上に座るのはどうかと思ったが、そもそもここには椅子がない。それに床に座ろうとしたら、小屋の主が許可してくれた。


 まあ、あれは許可というより命令に近かったが。


 ともかくその件の小屋の主は、机の上にあるホログラムをいじっているようだった。



「・・・・ヨシ、デキタ 」

「? 」


 ひとしきりイジリ終わった後、満足そうに頷く小屋の主。

 そうして、こちらに振り向き。


「コノ世界ガ今ドノヨウナ状況カ君ハ知ッテイルカ? 」

「もちろん 」


 一応、話は聞いたからな。


「ケド、君ニハマダ知ラナイ事ガ沢山アルハズダ 」

「まあ、そりゃあな 。その言い方だと俺が知らない事を色々と知ってそうだが 」


 というか、知ってるだろ。


「ダカラ、少シ話ヲシヨウト思ウンダ。君ガソレを知ッテ損ハシナイカラネ 」

「勿体ぶるなよ。お前は何を言いたいんだ 」

「フム・・・・・、『お前』ト言ワレルノハ僅かニ不愉快カナ。ドクターと呼ンデクレ 」

「・・・・分かったけど 」


 機械生命体にはそれぞれ名前があったりするのだろうか。

 ふと、気になったのでその辺を聞いてみた。


「アルニハアル。個体名ナラダガ 」

「個体名?数字とかか? 」

「ソノ通リ。デモ私ハ気ニイッテナインダ。ダカラ、アマリ個体名ハ名乗リタクナイ 」

「ふむ 」


 あるにはあるんだな。

 まあ、話を戻すか。


「ソウダネ、話ガ脱線シテシマッタ。話ヲ続ケルヨ。私ガ話ソウト思ウノハ、君以外ノ人間ノ居場所ダヨ 」


 なるほど、・・・・・やはり人間は全滅なんてしてなかったと言う事か。

 薄々そうだろうとは思っていたが。


「それは是非聞きたい。というかドクター、なんでお前がそんな情報を知ってるんだよ・・・・・ 」


 ホントに謎は深まるばかりである。

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