第13話 王都なんてろくなもんじゃねえ!

 あれから約一時間、ずっと歩いて流石に少し疲れた。


「まだ着かないのかよ……」


「シンティ、前を見てください」


「えっ? ……うおぉ!?」


 前を見ると、目の前にパッと見10mぐらいの大きな壁があった。


「いやいつの間に?」


「シンティがずっと下を向いて歩いているから気づいてなかったんだと思いますけど、だいぶ前から見えてましたよ」


「マジかよ……」


 完全に無意識だったけど俺ってそんな下向いて歩いてたのか……。危ないな、今度から気をつけよう。


「さて、じゃあ念の為確認しますけど、王都へ行く目的は分かってますね?」


「おう、バッチリよ。ステータス更新だろ」


「それに祭りだ」


「……一応メインは王に報告することなんですけどね。取り敢えず今日は少しだけ王都を回ったら宿へ行って、用事は全部明日以降にしましょう。二人共それでいいですか?」


「「はーい」」


 そんな会話をしているうちに門に着いた。いや改めて見ると凄いでかいな。それに門番っぽい兵士の人がものすごくイカつい。


「まず私が先に行くので後から入って来て下さい」


「おう」


 そう言ってエールが門番の所へ行くと、顔の怖い兵士がエールに気付き、それはもう見事な美しい敬礼をした。

 エールはその後少しだけ会話してあっさりと中へ入って行った。すげぇな勇者、本当に顔パスで行けんのかよ。

 つーか今更だが俺は勇者の仲間なのに顔パスは無理なんだな。別に気にしてないけど。


 そしてエールが入って少し経ってから俺達も門へ向かった。


「あの……」


 と軽く声をかけたら


「……何だ」


 思いっきり睨まれた。

 いやエールの時とえらい違いだなおい。もうちょっと愛想良くしろよ、とツッコミを入れてやりたかったがそんな度胸ないので大人しく要件を言うことにした。


「えっと、入国したいんですけど……」


「……入国証を見せろ」


 怖い、怖いんだよこの人。特に目、これは確実に人殺したことある目だよ。

 ……下手に刺激しないようにしとこう。

 俺は言われた通りに自分の荷物の中から国際なんちゃら手形を出し、兵士の人に見せた。


「……通れ」


 何故か怪訝けげんそうな顔をされて通して貰えた。

 俺が先に行き、後からメイビスが着いて来ようとした時、


「おい待て、そこのエルフ、勝手に通ろうとするな。入国証を見せろ」


 あ、やべ。忘れてた。


「あー、この人はですね……」


「よく見ろ、ワタシは奴隷だ」


 俺が説明しようとした時、メイビスが自分の左手にある奴隷紋を門番に見せつける。

 門番がそれを見るや否や、すぐに俺の右手を掴み、手の甲をじっと見つめてくる。

 そして俺とメイビスの紋様を交互に見て、ため息混じりに手を離す。


「……通っていいぞ」


 俺の方を睨みながら呟く門番。

 何だそのゴミを見るような目は。言っておくがこれは別に俺が好きでやってる訳じゃないからな!

 ……と言う勇気がないから、俺はメイビスを連れて足早に中に入って行く。


 5m近い厚さの城壁を抜けると、やがて真正面には幅20m近い大通りとそれを埋め尽くすほど沢山の人がいて、中世ヨーロッパ風の建築物が視界いっぱいに広がっていた。

 そのほとんどが一軒家ではなく、4~5階ぐらいのアパートのような建物で、建物同士がやたら太いロープのようなもので繋がり、多くの旗がぶら下がっている。建国祭やってるって言ってたから、おそらく国旗か? 真ん中にでっけードラゴンが描かれてる。


 個人的に一番好きな国旗だったアルバニアの国旗よりもかっこいいな。さすが異世界ファンタジー、絶妙に厨二心をくすぐってくる。


「シンティ、受け取ってください」


 なんてことを考えていると、エールが俺に小袋を渡してきた。俺がそれを取って中身を見ると、中には大量の金貨が入っていた。


「何この大金?」


「これから私とメイビスさんは宿を取りに行ってきます。その間シンティは王都を見て、好きに買い物でもしていて下さい」


「えっ、何で俺だけ?」


「シンティとメイビスさんは離れていてもお互いの位置が分かるので後で合流しやすいんです」


「ふーん、まあそういうことなら先に楽しませて貰うわ」


「ズルい、ワタシも祭りがいい!」


 駄々っ子か! そんな年上のお姉さん的な見た目しといて駄々っ子か!


「メイビスさんは人間の国に慣れてないので、さすがに1人で出歩かせるわけには……」


 エールが子供をなだめる母親みたいでなんか不憫だから、軽くフォローしとこう。


「まあまあ、祭りなら後で楽しめるし、いくらでも付き合うから、な?」


「…………分かった、約束だぞ」


 ずいぶん間が長かったな。そんなに楽しみにしてたのか……何か申し訳ないな。


「じゃあシンティ、私たちは先に行きます」


「おう、また後で」


 そう言ってエールたちを見送ると、すぐ人混みに入って見えなくなってしまった。


「さて、じゃあ行くか」


 そう言って、俺はすぐ人気のない裏路地に向けて出発した。

 え? 祭り楽しむんじゃないのかって? バカヤロウ、こちとら元々人混みは苦手な上につい最近まで引きこもりだったんだぞ。異世界来てたかが数日で人間そこまで変われんよ。


 そしてそのまま路地裏に入り、大通りから離れるように歩いていく。まあ予想通りだが、路地裏は複雑な迷路のように分かれ道が沢山あった。

 だが残念だったな。俺はゲームではレベリングの次にマッピングが得意だったんだ。だから迷子になることはない!

 ……誰に威張ってんだ俺は? アホらしい。


 そんなことを考えながらサクサクと進んで行くと、少し広い場所に出た。隅っこにちらほら人がいるが、どうにも幸薄そうな感じがするおじさんが酔いつぶれて寝ているだけだ。


 しかもここ行き止まりじゃねえか。

 仕方ない、戻って別の道行くかー。


 そう思って後ろを振り返ると、いつの間にか誰かが走ってこちらに向かって来た。フード付きの大きなローブを着ているので顔は見えないが、走り方と息づかいでおそらく女なのだと分かる。


「すみません、どいてください!」


 つい反射的に道を譲ってしまったが、この先行き止まりだったわ。

 俺がそれを伝えようとする前に、彼女はもう横を通り過ぎてしまった。そして行き止まりだということに気付いたのか、走るのをやめて立ち尽くしてしまった。


「はぁ、はぁ……、そ、そんな……」


 肩で息をしているところを見ると、相当長い距離を走ってきたのだろう。

 ていうか絶対追われてきたんだよな。なんか後ろの方から「待ちやがれ!」とか「どこ行きやがった!」って感じの声が聞こえてきたし、それを聞いて後ろ振り返ったってことはつまりそういうことなんだろう。


 ああもう、なんでこんなに厄介ごとに巻き込まれるんだ俺は!

 けどこの状況で見捨てるような薄情者でありたくはないし、なんとか助けてみるか。


 しかし助けるといってもいきなり知らん奴から声をかけられるって、彼女の立場からしたら相当怪しいよな。さて、どうしたもんか……。


「! お願いします、助けてください!」


 頭を悩ませていると、こちらを見てすぐにハッと何かに気づいた彼女からまさかのヘルプコールが来た。

 もしかして、この剣見て俺が戦える人だと思ったのか? 一応護身用にってぶら下げてるけど、俺は剣術なんて習ってないからお飾りみたいなもんなんだけどな。

 とはいえ向こうから来てくれるなら手間が省けて好都合。


「何があったんだ?」


「……すみません、詳しい事情は話せません」


 訳アリだとは思っていたけどまさか事情を明かせないとは、これはいよいよ面倒なことになってきた。まあ今更気にしてもしょうがないし、いいか。

 そんなことを考えていると、そこの道から「見つけたぞ!」というでかい声がきこえた。


「ちょろちょろ逃げやがって。けど残念だったな、ここら辺は俺たちの縄張りだ。もう逃げられねえぞ!」


 現れたのはいかにも町のゴロツキって感じの男三人組。しかも手には剣を携えて、こちらを囲もうとしてきている。俺は囲まれないように少しずつ下がりながら三人組のリーダーっぽい男に向けて声を出す。


「あんたらさ、男三人でよってたかって女一人追いかけまわして恥ずかしくないのか?」


「なんだお前は? 部外者は引っ込んでろ、被害は最小限にって言われてんだよ」


「一応、ほんのついさっき護衛になったところだから部外者ではないんだよ。それに今、言われてるって言ったな、てことはお前ら誰かに依頼されてやってんだろ。後でいくらでも金やるから引いてくれないか?」


 雇われ人なら報酬次第で寝返ってくれそうなもんだ。特にこういう金に対する欲強そうなやつらは。


「馬鹿にしてんのか! こっちはギルドの冒険者として依頼を受けてんだ、信用を失うわけにはいかねえんだよ!」


 返答は何とも意外なものだった。どうやらこいつらには無駄だったみたいだな。むしろ逆にプライドを傷つけてしまった。

 穏便に済ますつもりが、これでは戦闘は避けられないかもしれないな。警戒しながら剣を抜き、超感覚シャープセンスを発動させる。


「てめえら、やっちまえ!」


 リーダーの合図で左右にいた部下二人が同時に斬りかかって来た。


 まずい、両方は対応出来ねえって思ったら、こいつらおっそ! いやまあ、100%超感覚のおかげだけど、そういえばこのスキル使ってる時はエールとかメイビスとかの速さでも見えるんだし、不思議でもないか。


 という訳で、左の部下Aの方が先に来るので足払いをして転ばせ、右の部下Bの剣をこっちも剣で受け止める。


「なっ……!?」


 受け止められるのが予想外だったのか、部下Bが驚いて、距離を取ろう後ろへ跳ぶ。そこへすかさず闇霧グラビティミストを放つ。空中では避けることが出来ず、霧に触れた部下Bは地面へ叩き付けられる。よし、これであいつは動けない。

 そして先程転ばせた部下Aが攻撃態勢に入る前に悪夢ナイトメアを放ち、モロに食らった部下Aは一瞬で眠りに落ちた。これで二人とも無力化できた。


「オラァ!」


 俺が部下二人に気を取られている間に、正面からリーダーの男がすぐそこまで近づいて斬りかかっていたが、速さ自体はさっきの部下の方が速かったから軽く後ろへ飛んで避ける。

 リーダーのパワーは相当なもので、避けた剣が地面に深々と突き刺さる。

 あっぶねぇ、あんなもんまともに食らったらまじで真っ二つになるとこだったわ。


「くっ、しまった!!」


 しかし、あまりに深く刺さってしまった剣を引き抜くことが出来ず、リーダーの男が狼狽する。

 その隙を逃さず、俺は腕に硬化ハーディングをかけてリーダーの顔面をぶん殴る。鈍い音と共にリーダーは3mほど吹っ飛び、壁に叩き付けられる。


「ち、ちくしょう……」


 リーダーは少し粘ったが、すぐに意識を失って倒れる。てか顔面すごいことになってたな。上前歯折れて鼻も曲がってたし、少しやりすぎたかもしれん。……いや、向こうも俺を殺す気だったし、殺さないだけマシか。あと念の為、闇霧食らってるやつも眠らせとこう。

 ……よし、完全勝利!


 そういえば、何気に異世界に来てからの戦闘で初めて勝った。過去二回は死にかけたけど、今回は無傷で勝てたし、意外と成長してる?


「す、すごい……!」


 あ、完全に忘れてたわ。結局この人何なんだ? 追っ手は倒したし、出来ればもう面倒事には関わりたくないんだけど。まあそういうわけにもいかないんだろうけど。

 これだけ広い街で女一人探すんだとしたら、追っ手がこいつらだけとは限らない。他にもいると見た方が自然だ。

 しばらくは一緒にいるべきだろうな。


「とりあえず、こいつらが復活しないうちに離れようか」


「は、はい、分かりました!」


 しばらくは平気だと思うけど、ずっとここにいる必要はないし、追われてるんなら人気がないところよりも大通りとかの方がいいだろう。そう思って移動しようと、道がある方へ歩き出す。


「ふむ、全滅か。所詮は低級冒険者。これなら私が一人でやった方が良かったな」


 その声は、突然後ろから聞こえた。

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死んで異世界に来たのにろくなことにならねぇ 夢無 悲 @TDKR

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