第12話 何で俺がこんな目に会わなきゃならんのだ!
俺はゆっくりと顔を近づける。覚悟は決まったが依然心臓が爆発しそうだ。
やがて唇に柔らかい感触を感じた。俺はそれと同時に顔を離し、エールの方を見る。
「……こ、これでいいのか?」
あかん、これ以上はもう心臓が持たない。
「あの……、今言うのはとても申し訳ないんですけど、一瞬だと全く効果ないんです。最低でも5秒以上はしないと……」
「なっ!? いやいやもう無理だ! 見ろ、メイビスなんて顔真っ赤で完全にショートしてんだぞ! てゆーかそういう事は先に言っておいて欲しかった!」
「とにかくもう一度です。今度はちゃんとお願いしますね」
「ちくしょう、もうどうにでもなれ!」
俺はもう一度メイビスの方に向き直る。
「という訳でメイビス、悪いけどもう一度頼む」
「…………」
「メ、メイビス?」
そう言って俺がメイビスの顔を覗き込もうとした瞬間、頭をガシッと掴まれた。
「へ?」
状況が理解出来なくて困惑していると、突然頭が前に引っ張られた。
「!!?」
次の瞬間、俺はメイビスとキスしていた。
訳が分からなくて一瞬困惑したが、すぐに気付いて離れようとメイビスの肩に手を置き、力いっぱい押したがビクともしない。
やばい、力の差がありすぎる。ていうか痛い、頭を抑える力が半端なく強い。あと苦しい、緊張で息ができない。
(や、やばい。このままじゃ窒息死する……)
俺はプロレスラーがギブアップする時のように、右手でメイビスの背中を叩いた。
その直後、ハッと正気に戻ったメイビスが慌てて手を離し、何とか逃れることが出来た。
「はぁ、はぁ……」
本当に心臓が爆発するかと思った。まだ痛いぐらいドキドキしている。
メイビスも同じように肩で息をしていたが、やがて呼吸が落ち着いてくると、冷静に先程の行動を思い返しているのか、次第に顔が真っ赤になっていき、気が付けばメイビスは深々と土下座していた。
「すまない、本当にすまない……」
「い、いや……だ、大丈夫、あの、本当に、全然、き、気にしなくていいから……」
緊張のせいで上手くしゃべれなくなっている。いやけどしょうがないだろ、人生最初でおそらく最後になるであろうキスがあんなもの凄いやつだったら。
「お、俺ちょっと顔洗ってくるわ……」
そうして俺は逃げるようにその場を離れた。今はまともにメイビスの顔が見れん。
「……ふぅ」
顔を洗ったら少しは落ち着いたな。そろそろ戻るか。
そう思い、後ろを振り返った瞬間――
「シンティ、ちょっといいですか?」
目の前にエールがいた。
「……!」
急に声をかけられて思わず体がビクッとしてしまった。
毎度のことだが、知らぬ間に背後に立たれてるのが怖い。ビックリするからやめて欲しいんだが……まあそうは思っても口にする勇気は無いんだけど。
「どうですか?」
「どうですかって……?」
……まさかメイビスとのキスの感想でも聞かれているのか!?
こっちは死ぬほど恥ずかしい思いまでしたのに、まさかネタにされるとは思わなかった。
「右手の甲に奴隷紋の
そう言われて俺は右手を見ると、そこには赤い紋様が浮かんでいた。何か○ateの令呪みたいだな。
「あぁ、なんだそんなことか。言われてみればさっきから少し痛いなと思ってたけど、まあ平気だよ」
「痛みはすぐに無くなると思います。それと即席用なのでその奴隷紋の効果は24時間です」
「なるほど、じゃあそろそろ出発しようか。先にメイビスの所に戻ってるから」
そう言って歩き出し、エールの横を通り過ぎようとした時――
「あ、そう言えば……」
「どうした?」
「メイビスさんとのキスはどうでしたか?」
思わず吹き出してしまった。
いや結局ネタにされんのかよ。全く、人の気も知らないで……いやわざとか? わざとだな、わざとやってるに決まってる。
だがしかし、どうと聞かれても正直緊張と恥ずかしさで何も感想とか出て来ないんだけど。
「ふふっ、冗談ですよ。あまりにも動揺していたので少し和ませてあげようと思って」
「な、なるほど……?」
エールなりに気を使ってくれたって事なのか。いやだからってそれをネタにするのは酷くね?
「さあ、メイビスさんの所に戻りますよ」
「あ、あぁ……」
どうしよう、この後メイビスとどう接すればいいのか分からない。まともに会話すら出来なさそう。
そんな事を考えながら戻ると、メイビスは既に支度を済ませていた。そう言えばメイビスには俺と同じように紋様が出ているのだろうか。
「二人とも遅かったな、待ちくたびれたぞ」
……何か随分と落ち着いているな。まあ変に緊張しなくて済むから、その方がありがたいんだけど。
「メイビスさんの左手にシンティと同じ痣があると思います。それがある間はお互いに位置を把握することができます」
「OK、分かった」
なるほど、GPSみたいな機能があるわけか。まあ多分王都は人が多いだろうし、あると便利だよな。
「よし、じゃあ行きましょうか」
やれやれ、やっと出発か……、何か不安になってきた。王都に行ってからも何かが起きる気がしてならない。
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