第11話 流石にそれはヤバいって!

 気が付けば、俺は地面に大の字になって空を眺めていた。

 俺がそのままボーッと空を眺めていたら、上からメイビスが顔を覗き込んできた。


「随分と遅かったな」


「遅かった?」


「ワタシとエールが来てから5分ぐらい経って君が来た」


 何で俺だけそんなに時間がかかったんだ?実はあれってそんなに時間がかかるものだったり? うーん、分からんな。まぁ考えてもしょうがないし、別にいいか。


「あと何で寝っ転がってるんだ?」


「……さぁ?」


「さぁって……まあいいや、手を貸そうか?」


「いやいいよ、自分で立てる」


 そう言って俺は立ち上がり、辺りを見渡す。


「そう言えばエールは?」


「あなたの後ろにいますよ」


「うぉ!?」


 いやさっきまで誰もいなかったじゃねーか。急に後ろに現れるとか怖すぎるんですけど。


「遅かったですね、大丈夫ですか?」


「大丈夫だけど、俺も質問いい? ここどこ?」


「王都から西に2キロほど離れた所にある森の中です。」


「2キロか、まあそんなに遠くないし早速行こうぜ」


そう言って歩き出そうとした瞬間、


「あっ、ちょっと待って下さい」


ガシッと腕を掴まれた。

出鼻をくじくってこういう時に使う言葉なんだな。


「行く前に2人に少し話があります」


「何?」


「王都の中に入るには、入国審査があって、入国証が必要なんです」


「俺そんなの持って無いんですけど」


「それは大丈夫です。私達はギルドカードがあれば、基本どこの国でも行けます。けど、メイビスさんはダメなんです」


「なるほど、でもギルドカードを作りに王都へ行くのに、持って無いから入れないって変な話じゃないか?」


「いえ、ギルドカードは別に王都じゃなくても作ることが出来るんです。そもそも、ギルドは世界中の国や町に点在していますから」


「じゃあ今から別の所に行って作るとか?」


「ここからだと一番近い所が王都で、他の所に行くのに数日かかってしまうんです」


「ギルドカード無しで入れないのか?」


「商人なら国際通商手形があるので入れないって事は無いですけど、あなたの持ってるやつは本人しか使えないので無理です」


「じゃあどうするんだよ?」


「まあいくつか方法はありますけど、今回は入れさえすればいいので、一番簡易的な方法でいいでしょう」


「その方法とは?」


「メイビスさんがシンティの奴隷になればいいんです」


「……はぁ!?」


「ごめんなさい、ちゃんと説明しますね。奴隷と言ってもほんの数時間だけでいいんです」


「どういう事?」


「王都に入るには入国証が必要ですが、奴隷は主人の身分が保証されていれば問題無いんです」


「だからって何で俺が主人なんだよ」


「あなたは商人でもありますから、その方が自然かと思いまして。それに彼女もあなたが主人なら文句無いでしょう」


「いや、そこは本人に確認取らなきゃダメだろ……はぁ、まあいいや。んで、どうすればいいの?」


「簡易的な儀式でいいのですぐに済みます。ちょっとメイビスさんとキスして下さい」


「……はぁ!!?」


「分かりませんか? キス、つまり接吻です」


「いやそういう事を聞きたい訳じゃなくて、何で俺とメイビスがキスしなくちゃいけないんだよ!」


「だから儀式ですって」


「何で儀式にキスが必要なのかを聞いているんだ!」


「隷属の儀式には主と奴隷とできちんと主従関係を示す必要があります。相手が受け入れれば、キスでも十分に主従関係を示せるはずです」


「確証ないんかい! しかも、相手が受け入れればって言ってるし、どう考えても無理だろ! なぁ、メイビスも俺なんかとキスなんて嫌だろ?」


「い、いや、ワタシは別に……、構わないけど……」


「少しは構って!?」


 いや断るだろ普通、こんな冴えない男とキスとか、俺がその立場だったら絶対拒否するわ。


「メイビスさんがいいなら問題無いですね、じゃあシンティ早くしてください」


「いや問題大ありだろ、俺の意志は考慮されないのかよ」


「じゃあシンティはメイビスさんとキスしたくないって言うんですか?」


「いや、それは、その……」


「嫌じゃないならいいじゃないですか、早くしてください」


「いや俺まだ何も言ってないし、大体キスっていうのは好きな人同士がするものであってだな……」


「じゃあシンティはメイビスさんが嫌いだって言うんですか?」


「いやそうは言ってないけど、ていうか何で俺はこんなにも責められなくちゃいけないんだ」


「とにかく、時間が無いんだから早くして下さい!」


「ああもう、分かったよ、やればいいんだろやれば!」


 こうなったらもうやけくそだ。キスでもなんでもしてやろうじゃねえか。ちゃちゃっと終わらせてやる。


 俺はメイビスの方を向き直し、軽く深呼吸して肩を掴む。


 や、やばい、改めて冷静に考えるとこの状況大分まずくないか? 今物凄く恥ずかしいんだが。肩まで掴んでしまったからもう今更やめる訳にもいかないし。


「えっと、その、は、初めてだから、優しくしてくれ……」


「お、おう……」


 この状況でそのセリフを吐くなよ、余計に恥ずかしいじゃないか。取り敢えず今心臓が爆発しそうなぐらいバクバク言ってるからなんとか落ち着かせたい。


 そうだ、これはハムだ! ハムだと思えば少しは落ち着けるはずだ。


 これはハムこれはハムこれはハムこれはハムこれはハムこれはハム(ry


 よし……、いける。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る