最終話 フレンズ

「はー夏だねー」

夏ということでほとんどの虫のフレンズが活発に動いている。

目立つのはカブトちゃんとかクワガタかな?確かに夏の虫といったらこの2人か。

「……♪」

あ、蚊もそうか。

とにかくそう。ゴキブリももちろん。

「うぅ……暑いよぉ……」

「ヒトとか他のけものは暑いの苦手だからね……」

ネイタもミナミコアリクイもバテている。そして……

「……そうだね」

私もバテている。

「ホシも遊ぼ!」

「無理……」

「……。」

「……?」

「……ねぇ、ずっと思ってたんだけど、ホシって本当に私のこと大切に思ってるの?」

「……。」

「出会った時から疑っていたんだけど……。」

「……。」

「ねぇ……」


大切に思ってると言えば思ってる。一寸の虫にも五分の魂。ゴキブリが可哀想で楽しい思い出を創ってあげようと思っていた。

でも……ゴキブリだ。

この世界の管理人から聞いた。


『確かに命を消したくなんてないけど虫は殺しちゃうこともあるな……本当に申し訳ないけど……キモい……』


私の心は今まさにこれ。

少女になったとはいえ目の前にいるのはゴキブリなのだ……。


「……思ってなかったの?」

「……え?あ、違……」

「ううん、いいや」

ゴキブリは……駆けていってしまった。

100%キモいってわけじゃない。っていうか可哀想。なのに……

ゴキブリは速い。もう追いつけない。

「……。」

異変を感じてみんな集まってきた。

「どうしたの?」

「……喧嘩」

私はそう言って小屋に入った。


突然行ってしまったゴキブリを思い出す。

ゴキブリはヒトが嫌いなんだ……。

……あれ?

じゃあ選ぶべき道は……

……行かなくては



………………



「……ホッシーがいない!」

ホッシーがいつも寝ている小屋を見て僕は気付いた。

「ミナミコアリクイ、ホッシー知らない?」

「し、知らないよぉ」

「小屋に行ったはずなのに……あ、みんな、ホッシー知らない?」

遊んでた虫のフレンズ全員に訊いても答えはNO。

小屋に行ったはずのホッシーが忽然と消えた。しかもみんなに訊いても分からない。こんなことがあるのか。

「ジ、ジーちゃんを捜しに行ったんじゃないのかぁ?」

「そうかな……でもホッシーに言いたいことがあったのに。『ジーちゃん捜しに協力する』って。一応ミライさんに訊いとくよ。」

「ミライさんなら知ってそうだからかぁ……。」

「そうそう。」

ミライさんがこの時間帯にいる場所は……

バス乗り場?

僕はそこへ向かった。


「……ミライさーん!」

「ん、ネイタさん?どうしたのですか?」

「ホッシー……ホシを見ませんでしたか?」

「ホシさん……はっ!」

ミライさんは驚いた顔で言った。

「本当に、本当についさっきまで、私に質問を……」

「その質問の内容は!?」


「……『動物は体毛からでもフレンズ化するって本当ですか?』」



………………



「……。」

「……。」

「……分かってるよ、ホシ。」

「バレた?……この景色綺麗だよね。確か私がゴキブリの散歩についていって」

「そんなことより、私が気持ち悪いと思わないの?」

「……半分正解、半分不正解。可哀想と言っても目の前にいるのはゴキブリ。だからどうしても意識しちゃうんだ。ごめんね。今まで実はそうだった。可哀想とは思っていたけどね。」

「なら……」

「でも」

「……。」


「飼育員である私がそんな『ヒト』だからダメなんだよね」


「……?」

「私、このパークを出ることにした」

「……え?」

「フレンズって優しいよね。でもヒトはそうじゃない。ゴキブリを恐怖に陥れる。それがストレスになるのなら……」

「待って、そこまで言ってないじゃん!それに、ホシがパークを出たら私の飼育員は……」

「安心して、これをあげる」

「……髪の毛?とじゃぱりまん……?」

「じゃぱりまん、食べな」

「……そんなので許すと……アムッ……思って……モグモグ……あれ……?眠気が……」


ドサッ


「……。」ニコッ


タッタッタ



………………



「……ちゃん……ジーちゃん!」

「……はっ!?」

私はネイタに起こされた。確かじゃぱりまんで……寝て……

「ふぅ……大変だったんだぞぉ……。」

「でも蚊がここを知ってて良かった!ありがとう!」

「うん、ジーちゃんに教えてもらった。どういたしまして。」

ミナミコアリクイ、スナ、蚊もいた。

「……大変だったんだ。」

私は頭をかいた。ぼやけた意識が戻ってくる。

「……はっ!?そ、そういえばホシは!?」

「ホッシー?」

「パークから出るって!『ヒトは優しくないから』って!」

「「「えぇ!?」」」

全員唖然としていた。

「どうするんだよぉ!?」

「ここから海洋地方は遠い。海洋地方行きのバスももう出発した。

……船の時刻も考えると手遅れだ。」

「そんな……そんな……」


私は膝から崩れ落ちた。


その時。


ドーーーーーン!!!


「サンドスターノ火山ガ噴火シマシタ!唐突ナ動物ノフレンズ化ニ注意シテ下サイ!繰リ返シマス……」


いつか聞いた噴火の音とラッキービーストの無機質な声。

次の瞬間、サンドスターがじゃんぐるちほーにも降ってきた。

「わぁ!こっち来るよぉぉぉ!」

「落ち着いて、スナ。きっと大丈夫。」

蚊の言葉で安心してふと手を見ると……ホシがくれた髪の毛が光っていた。

「うわ!?」

びっくりして私はそれを投げた。


そして何故か


『フレンズって優しいよね。』


この一言が脳裏に浮かんだ。


ピカーーーーー


……。


眩しい光が収まった。

みんな目を開けた。

そこに広がっていた信じられない光景。

私の目の前にフレンズが転がっていたのだ。

起き上がった生まれたてのフレンズ。耳も尻尾も触角も翅もない。あのヒトの面影がある気がする。

「……うわ!?襲わないで下さい!」

「お、襲わないよ……」

「そうですか、良かった。あ、あなた達は?」

「私……私達は……」

声が出ない。


……彼女はヒトのフレンズ……正確には『ホシのフレンズ』だ……。

砂星サンドスターは奇跡をくれたの?絶望をくれたの?

彼女を飼育員にしろって言うの……?





……ヒトがゴキブリをゴキブリと認定したから



そのせいでこの物語は



-merry bad end-

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担当フレンズが『ゴキブリ』なのですがそれは。 あんかけ(あとち) @Ohoshisama124

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