第3話 Ebisu 23:25
「渋谷まで歩くぞー!」
ユウが叫びながら線路沿いの道を駆け出していく。
「るせ!走ってんじゃねぇか!」
アラタはユウの背中に向かって声を投げつけた。
ユウはしばらく走ると、線路沿いのフェンスによじ登ってアラタのことを待った。
アラタが近づくと、またフェンスから飛び降りて走り出した。
そして、しばらくいったところでフェンスに登って待っている。
せっかく一緒に飲み屋に入った女子二人連れも、ユウの奇行に恐れをなして帰ってしまった。
最初から、女子たちのほうもウザい感じではあった。
「え、彼氏いたことないからわかんない」とか、何か質問するたびに「当ててみて?」などと言っては自分たちで笑っていた。
それでも、一つ一つ律儀に笑いに変えていくことで、それなりに場は暖まってきてはいたはずだった。
ところが、ユウの会話への入り方がおかしいのだ。
ユウ「え、じゃあ俺たちのうちで、逮捕歴があるのはどっちだと思う?」
ユウ「まぁ俺たちもあんまりハメ外すと所属事務所がうるさいからね」
ユウ「はい、じゃあこれがホージーのマネ! ここから歩幅を少し狭めて、でも腰の高さは変えないように膝を曲げると誰になる? ヒントはロッテ!」
などなど、ハチャメチャな会話を入れ込んでくる。
そのたびにアラタは律儀に突っ込んで場を持たせていた。
アラタ「おい!前科持ちを暴露すな!で、どっちだと思う?」
女A&B「……」
アラタ「その目は俺って言いたいのか?!」
アラタ「やべ、そうだ。マネージャーから連絡来てない? って、とりあえず乗ってみたけどめんどくせーわ」
アラタ「ホージーって古いな。フランコでしょフランコ。ちがった、ボーリックかー!」
などなど。
ユウ「アラタってさ、すげーヤツだよな」
駅のコンコースに向かって歩いていく女子二人の背中に中指を立ててニヤつきながら、ユウが言った。
アラタ「すげーのはテメェだよ。テキトーすぎんだろ!」
ユウ「頭の回転がすげーよ。やべ、振り返った! えーい、しねーい!」
振り返った女子二人にユウはわざわざ片膝立ちのポーズを決めて、左手を右手のひじに添えながら右手の中指を思いっきり立てて笑った。
ユウ「ギャハハ、バイバーイ!」
女子二人は心底からウザいという表情を見せて、もう二度と振り返らなかった。
ユウ「ちゃんとさ、いろんな人のこと考えて、ちゃんとバランスが取れて偉いよ。あー、俺はダメな奴だなって思った」
アラタ「お前がダメな奴なのはたしかだな」
ユウ「どーすんだよ!連絡先すらゲットしてねーよ!」
駅前で叫ぶユウを、通り過ぎるサラリーマンやOLが振り返っていく。
恵比寿駅前を忙しく通り過ぎる人々には、目黒駅で見たような一体感は無くなっていた。
それぞれがすでに自分のやることを見つけてしまったかのようだ。
飲み会を終えて家に帰る人。
デートからどこかへ泊りに行く人。
誰かを上手く捕まえた人や、捕まえそこなって帰る人。
目黒駅から3時間が経過した今、アラタの収穫はゼロだ。
アラタ「おい、ユウ」
ユウ「なんだよ」
アラタ「次どこ行く?」
ユウはアラタの顔を見ると「ひひっ」と笑った。
金曜の夜は深い。
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