第2話異世界鸛

 扉が降りる音が無音なのが少し気になったが、それよりも前方だ。

 敵は翼を広げ終わっているところだった。

 「?」鳥か?思う間もなくそれは飛び上がった。

 翼を広げたその大きさは大体二mチョイくらいか。鳥として規格外というほどの大きさではない。異世界の怪物というからどんなものが来るかと思えば拍子抜けだ。しかし、あまり油断は・・・

 と。

 最初それが何か分からなかった。

 しかし、考えるよりも先に体が動いた。

 スワンプマンを出した時。「それ」を受け止めた時。全ては後から気づいたことだ。

 「んぎゃああ」と声がする。確認するまでもない。

 「それ」は次から次へと降って来た。

 「くそ」敵は空を悠々と飛んでいる。

 「スワンプマン」と叫び、地面から人形を作る。瞬間で出来るが、間に合うか?

 「んぎゃあああ」全部で五人。全部受け止めた。

 今のところ被害ゼロ。

 自分ながら良くやったと思う。

 しかし、この敵は・・・

 飛びながら爆弾みたいに赤ん坊を落とすのが戦術か・・・厄介だ。

 どうする?

 いや、どうなるんだ。

 どこから赤ん坊を落としている?

 規則的に落としているのか?

 タイミングは?

 ええい。

 面倒だ。

 さっさと方を付ける。

 思い、棺を足に集中展開し足元を一気に爆発させ、跳ぶ。

 「はっ!!」私の能力の効果圏内に入れば、後は爆発させるだけでいい。このフィールドは奥行き二〇メートル、高さ一〇メートル。私の能力の効果は半径五メートル。五メートル縮めれば。

 「届く」その間にも赤ん坊を落としていく。

 くそ。

 「エア」と空気を凝縮させ緩衝材を作りそれで赤ん坊をキャッチする。

 わずか一秒の間に、あの鳥は三人落とした。

 それを全部確保。

 「見えた」効果圏内に補足。

 「爆破」と言う寸前、鳥は広げていた羽をたたみ、一気に降下した。

 くそ。射程を見切られたか。

 私の空中機動は一方通行だ。相手がここまで高速動作に対応すると思わなかったが。くそ、すれ違う。

 私が飛んだら落下して、すれ違う。私が動けないうちにまた空に上がる。以下これの繰り返し。これでは赤ん坊が増え続ける。

 私の能力は爆弾づくり、赤ん坊を見捨てればこんな相手はすぐに殺せるが。

 怒りがわいてきた。

 こんなやつはいつでも殺せたはずだ。なのにこの殺し合いの実験に出してきた連中に。

 「棺。上部展開」爆風で飛んでいるのならば、爆風で落下速度を上げて捕まえる。

 私の上半身に棺を展開し、空気を凝縮して力場を作りをの間で爆発を起こす。

 これで追いつく。

 ドン、と音がする。

 今度は逃がさない。

 一秒にも満たない時間で効果圏内に補足。

 今度こそ。

 両羽根から召喚しているようなので狙うのは胴体だ。

 ボン。

 とあっけない音がした。

 翼だけ残して胴体は消滅した。

 ふう。と安心したが。

 「んぎゃあ」まだ羽に隠し持っていたのか。

 くそ。

 「す」空気でスワンプマンを作ろうとしたが、落下速度が速い。

間に合わない。

 ならば。

 「加速」バンバンバンと爆発を連続させる。届けえええええええ。

 落下まで何秒?

 考えるな。

 少しだ。

 少し。

 後。

 少しだ。

 着地は無音だった。

 「っつはああはあはあ」空気で作ったスワンプマン達が赤ん坊たちを静かに地面に下ろして霧散した。

 私は翼の落ちているところまで行った。

 自信がない。

 確信はない。

 全力を。

 最善を尽くした。

 けれど、それらが何の意味もないことだってある。

 嫌というほど思い知らされてきた。

 でも。

 今回だけは。

 「神様」祈らずにはいられない。

 「ん」ぎゃああ。

 瞬間、涙が流れた。

 私は急いで羽を取った。そこには二人の赤ん坊があおむけになって泣いていた。

 わずか一分にも満たない戦いの中で赤ん坊たちは三十人はいるだろう。

 鳥と赤ん坊。

 と思って。

 「まさかこの鳥って。コウノトリ」冗談にしてはひど過ぎて。皮肉にしては度が過ぎている。

 私はこの子たちをどうするればいいか天を仰いだ。


 「実験終了です。お疲れさまでした」無機質なアナウンスが響く。

 「ねえ。この子たちはこの後どうなるの?」答えを期待せず、私はどちらかというとひとり言のつもりで言ったので、返事があったことに驚いた。

 「まだ処遇は決まっておりません」

 「この鳥がこのチカラ持ってるの知ってたんでしょ?だったら、その前の時に召喚された赤ん坊はどうなったの」

 「お答えできません」ほらこれだ。

 この組織何から何まで信用できない。いや、イカレている。

 「私報酬を放棄するわ」

 「そうですか。残念です」

 「その代わり」相手は無言。ま、お喋りを楽しみたいわけでもないだろうけど。

 「この子たちを全員引き取るわ。文句は言わせない」

 「それは構いません。頑張ってください。地上までは私たちが安全に移送することをお約束しましょう」

 「そりゃ助かるね」啖呵を切ったのはいいが。これから先どうすればいいのか皆目見当がつかない。しかし、これを放っておけるくらいならば、私は異世界に逃げ込もうとも思わなかっただろう。

 と、そこで気付く。

 「そうだ、少しサービスしてよ」

 「サービスですか?」

 「そ、用意してほしい物が在るんだ」

 「報酬を放棄したのでは?」

 「些細なものなんだよね」無言。

 「油性のマジック。この子たちに名前を付けないと」

 用意させましょうと相手は苦笑しながら言った。



●了

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