アルカディア

はくのすけ

ロキとレーヴァテイン

旗の下に集いし若き英雄達は今まさに最後の時を迎えようとしている。

都市のすぐそばに流れる川の向こうに敵国の兵が大軍で押し寄せている。


英雄の一人が言った。

「このような事で終わるのか?」

「そうだな……まだ目的も果たさぬままだが……」

今まで数知れずの試練を乗り越え、英雄の域に達した者たちでさえ、目の前の大群には勝ち目が無いと悟った。


「ルアキニ、これを」

一人の英雄がルアキニと呼ばれる英雄に銀色杯を手渡す。

「これは?」

「滅びゆく者の為に」

ルアキニは笑みを浮かべ銀色杯を掲げ一気に飲み干す。

英雄達の表情が一斉に引き締まる。

「では行こうか」

英雄達は死地に向かう。

川の向こうにいる敵国の元に。


誰も何も語ろうとはしない。

それもそうだろう。

これから起きることは分かっているからだ。

それなのに誰も逃げ出そうとはしない。

なぜなら、英雄達の後ろには愛すべき家族がいる。愛すべき友もいる。

守るために戦う。

その姿はまさに英雄と呼ばれるの相応しい。


しかし、英雄達の想いはそうでは無かった。

英雄達は知っていたのだ。

逃げられないことを。

このまま戦わず降伏した場合の後の事も。

そう都市の人々は敵国に蹂躙されるだろう。

降伏したところで結果は同じだ。

英雄と呼ばれ、プライド高い男達にはそれが耐えられない。

奴隷のような扱いを受けるぐらいならいっそ、英雄らしく戦いを挑んで滅んでしまおう。

彼らの想いはその一点につきた。

ただ一人、ルアキニにを除いて。

ルアキニだけは勝てると信じていた。


そして英雄達の戦いは始まった。

何万という大軍に果敢に戦いを挑み、一人、また一人とその尊き命を落としていく。

ルアキニは最後の一人となった。

そんな中でも孤軍奮闘するが、やはり時間の問題だった。

ルアキニの剣が折れ、周囲を敵兵に囲まれる。

絶体絶命の危機に陥るルアキニ。

じわりじわりと兵がルアキニに近づく。

ルアキニは周囲の兵を見渡しながら腰を落としゆっくりと後ずさりする。

徐々にルアキニと兵の距離が近づく。


その時、大軍の兵が大きな爆発と共に吹き飛んだ。

刹那何が起きているかは理解出来ない。

敵国の兵もルアキニにも同じで理解出来ない。

「噴火?」

兵の一人が叫ぶが、この周囲に火山など無い。

では一体何が……

「我の声が聞こえるか?」

頭の中に直接話しかけるその声に驚くルアキニ。

周囲を見渡しても敵兵しか見当たらない。

「汝に力を貸そう」

その言葉のすぐ後に再び爆発が起きる。


慌てふためく敵兵の姿がルアキニの目に映りこむ。

「汝よ我の元に来い!さすれば汝に力を与えよう」

「お前は誰だ!」

ルアキニは声に出して叫ぶ。

「我が名は『レーヴァテイン』神に仕えしものだ」

ルアキニは周囲を見渡すがレーヴァテインらしき人物はどこにも見当たらない。

「ふふふ、では汝の敵を滅ぼそう」

レーヴァテインはそう言うと、炎の壁がルアキニを囲むように現れた。

炎の壁は敵兵に襲い掛かるように向かう。

「な!なんだこれは!」

敵兵は炎の壁を目にして逃げ惑う。

一瞬の出来事だった。

敵兵が全て炎に焼かれたのである。


「こ、これは……な、何をした?」

ルアキニはレーヴァテインに向かい叫ぶ。

「汝の敵を滅ぼしたに過ぎない。それが汝の望みだったのであろう?」

頭に響く声は冷静で残酷だった。

「俺にどうしろと?」

「我が元に来い。汝は神に選ばれし英雄。汝の力を神が必要としている」

「神が俺に?」

「そうだ。このままだと人類は滅ぶ」

レーヴァテインは意味不明な事を口にする。


人類が滅ぶなどあり得ない。

この世界において英知を極めし人類が滅ぶなどあり得ないしあってはいけない。

「何を言っている?」

「我が元に来れば全てが分かる」

「……どこに来いと?」


「汝を含む七人の英雄は我らの元に集いし時、道は開かれる」

道が開かれる?

七人の英雄?

「……だから、どこに来いと!」

少しイライラした口調で再度尋ねる。

「この世界の中心。『アルカディア』に続く地だ」

「アルカディア?」

「そうだ、人類の理想郷」

「……それはどこにある?」

「汝はもう知っている筈だ」

その言葉にルアキニの頭に一つの風景が映し出された。


広大な草原の中心に少し高い丘がある。

その丘の上に、神秘的な石の建造物。

建造物の隣には大きな木があった。

「ここがそうなのか?」

「そうだ。ここに来い『ロキ・ルアキニ』」

「……分かった」

こうしてルアキニはその地を目指す。

一人の英雄が真の英雄になる前の物語。

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アルカディア はくのすけ @moyuha

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