第2話 使いと水鉄砲で遊びたい

 昨日、神さまは少年に時間を止める力を与えたので、偉い神様に怒られてしまいました。

 だから今はとってもムカムカしています。羊そっくりのモフモフな服を着た神さまがムスッとしているなんて滑稽ですね。もちろん、本人は気がついていませんが。

「はてさて、このムカムカをどうしたものかのぅ」


 神さまのもとには先ほど、偉い神様の使いから『今日は大人しく反省しているように』という手紙を渡されたばかりなのです。


 けれどやっぱり、偉い神様のいう通りにするなんて、癪です。

「よーし、今日も楽しいことをしよう!」


 神さまは何かないかと人間たちの世界を見下ろしました。



「さぁかかってこい!! 怪人ガオガオ!!」

「望むところだ!! ガォォォっ!!!」

 小さな家のお風呂では、今日も弟が水鉄砲を使いながら怪人役の兄と戦っています。

 ピューッと水を飛ばしながら大はしゃぎする弟。

 兄の方もバシャバシャ水を手で弾くので、負けてはいません。



「わしも水鉄砲で遊んでみたいのぅ」

 神さまはなんとなく呟いただけだったのですが、いつのまにか、すっかりその気になってしまいました。

 あんな風に大はしゃぎすれば、モヤモヤだっていなくなることでしょう。


 ところが、神さまには、一緒に遊んでくれる家族も、友達もいません。

「うぅむ……」


 そしてふと、偉い神様には使いがいたことを思い出したのです。

「そうじゃ、わしも使いを雇って、一緒に遊ぼう!」



 神さまは、とても羊が大好きなので、羊を使いにすることにしました。


 本来、使いは主人と遊ぶのが仕事ではないはずですが……。神さまは全く気にしません。


 三匹ほどヒョイっと地球から羊を引っ張り出して、

「今日からそなたたちはわしの使いじゃ」

 と命じます。


 羊たちは

「メェー? さっきまでご飯を食べていたのに、どうしてこんな所に?」

 と互いの顔を見合わせていましたが、神さまはすでに水鉄砲を用意していました。

「さあ、わしから逃げるのじゃ!!」


 しかし、うまくいきませんでした。


 もちろん神さまの説明不足もあったのですが、もともと羊ははしゃいで遊ぶ気性ではなかったからでしょう。

 おまけに神さまは、お気に入りの羊の服を着ていましたので、余計に混乱させてしまっていたようなのです。


「もう帰って良い」

 訳の分からぬまま、羊たちは元の場所に帰されてしまいました。




 神さまは、全く満足していませんでした。

「もっとノリがいい動物はいないのかのぅ?」

 そして、さっきの兄弟が遊んでいた姿を思い出します。

「そうか、怪人ガオガオは暴れとおったな! ならば力のある、強い動物を呼ぼう!!」


 そこで呼び出されたのは、百獣の王、ライオンです。

 金色のたてがみが、とても立派に輝いていました。


「そなたをわしの使いにする!」

 神さまは、自分の使いにすることを忘れません。


 また混乱してしまうかと思いきや、ライオンの反応は意外なものでした。

「使い?羊が俺様を使いにするだと?!」


 ライオンは神さまの格好を見て、羊が自分をバカにしていると本気で怒っていたのです。


 けれど神さまは、遊びに乗ってくれたと勘違いして、水鉄砲を構えました。

「さぁ、かかってくるのじゃ!」

「ガォォォッ!!!!」


 それからというもの、二つの影は雲から雲へと飛び移り、大さわぎしていました。

 神さまは避けるのがとても上手なくせに、水鉄砲の腕はひどかったので、勝負はなかなかつきません。

「このぉっ、手強いのぉっ!」

「くそっ! 羊のくせに!! 妙にすばしっこいじゃないかぁ!!!!」

 神さまが当て損ねた水鉄砲の水は、雨となって地上に降り注ぎます。




 そしてあるとき、神さまはピタッと動きを止めました。

 あまりにも急だったので、ライオンもつられて止まってしまいます。


「もう十分遊んだ。帰って良いぞ」

「はぁぁぁぁ?!?!?!」

 やっぱり気まぐれな神様なのです。


「いつか絶対に倒してやる!!」

 悔しそうに地上へと戻っていくライオンに、神さまはニコニコ手を振ったのでした。



 ところが。

 ライオンを見送った神さまが後ろを振り返ると……。


「え、偉い神様!!」

 いつものように腕を組んで、こちらをギロッと睨んでいます。


 神さまは真っ青になりました。あんなに大騒ぎしたのです。

 また怒られるに違いありません。


「えっと、これは、そのじゃなぁ……」

 どなり声を覚悟して、偉い神様の顔を見上げます。


 ――笑っている?


 あんなに怖いはずなのに、目が和らいでいるではありませんか!


「ちゃんと反省をしたようだな。日照りの続いていた地域を見つけ、雨を降らせるとは素晴らしい行いだ」

 どうやら、水鉄砲の水を飛ばしてできた雨粒が、偶然、水に飢えた土地を癒していたようです。


 口をぽっかり開けて固まっている神さまを、偉い神様はワッハッハとお腹を抱えて笑いました。

「今後も期待しているぞ」



 神さまはとても気まぐれですが、それが誰かを救うことだってあるのでした。

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神さまの気まぐれ 🌻さくらんぼ @kotokoto0815

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