神さまの気まぐれ
🌻さくらんぼ
第1話 『おおあたり!』のおみくじ
とあるところに、とても気まぐれな神さまがいました。
今日もいつものように雲の上から世界を見下ろしていると、突然、人間に新しい力を授けたくなってしまいました。
「しかしどんな力がいいものやら」
かみさまは今までたくさんの人間を見てきましたが、一人一人色々な望みがあるので、どうすればいいのかわかりません。
おまけに自分よりも偉い神様がいるので、地球全体に影響するようなことをすると、呼び出されてお説教をされてしまいます。
「こまったのぅ」
すると、ちょうどおみくじを引いている人間たちの姿が目に入りました。
「これじゃ!」
神さまは、指を一振り、沢山あるおみくじの中に『おおあたり!』と書かいた紙を、一枚混ぜてしまったのです。
たった一人くらいなら、偉い神様にも大目に見てもらえることでしょう。
「これを引いた人間に、特別な力を授ける!」
神さまは、すっかりご機嫌でした。
「なんじゃこりぁ!?」
神社いっぱいに、少年の叫び声が響き渡ります。
黒髪でボサボサ頭のその少年は、ビー玉のように目をまん丸にしていました。
少年は先ほど引いたおみくじを開いたのですが……。
おみくじの紙にはただ一言『おおあたり!』と書かれているだけなのです。
大吉でも、大凶でもなく。
少年がそこまで驚いたわけは、もう一つあります。
さっきお参りをした時に、
「あたりが出ますように」
と願ったばかりだったのです。
あたりといっても、お菓子の袋やアイスの棒のあたりを思い浮かべていました。
それがまさか、『おおあたり』が出てるとは!
僕は最高についてる! 願いって、ちゃんと叶うんだ!
そういうあたりとは思いもしなかったけれど、少年は嬉しそうです。
――ところで、大吉と大当たりって、どっちの方がいいんだろう?
そんなことを思っていると、突然『おおあたり!』が白い光を放ちだして、少年を吸い込んでしまいました。
神さまが、少年を呼び出したのです。
「さぁ、そなたの願う力はなんじゃ?」
真っ白い雲の上に連れてこられた少年は、何が何だか、混乱しているようです。
それもそのはず。
おみくじを引いたら『おおあたり!』が出て、気がついたら雲の上にいるのですから!
おまけに目の前にいるのは……。
「神さま……?」
「その通りじゃ」
僕は夢でもみているんだな。少年は、一人で納得しました。
だって神さまだったらもっと威厳たっぷりだろうし。
少年がそうなるのも仕方がありません。
神さまの着ている服には、羊のイラストがプリントされているのですから。
「ほれほれ、早く決めんか」
神さまは、少年を急かします。
神さまは自分の気分が変わってしまう前に決めて欲しかったのです。
少年は、自分の頭を掻きました。
そんなことを言われても、パッと言えるものではありません。
おまけに神さまは、みるみる機嫌が悪くなっていきます。
しかし、ふと、これは夢だということを思い出し、少年は元気付きました。
そして、どうせならすごいことを言ってやろうと思ったのです。
「時間を止める力が欲しいです」
少年は、思い切ったことを願ったつもりでしたが、神様にとってはおやすいご用でした。
「ほーれ」
指を一振り、少年に力を授けます。
「力は、そなたの好きな時に好きなだけ使えるのじゃ。もう帰って良いぞ」
神さまは、少年がお礼を言う暇もなく、元の場所へと帰してしまいました。
正直なところ、神さまは自分から呼び出しておいて、面倒くさくなっていたのです。聞かれたら答えればいいだけなのに、逆に誰なのかと問われる。
おまけに少年は悩んですぐに答えない。
まぁとりあえず力は授けたので、あとはどうなるかを見るだけです。
神さまの機嫌は治り、ヒョイっと人間の世界を覗くのでした。
変な夢を見ただけと思いつつも、少年は、力を試して見ることにしました。
本当に時間を止めれる。そんな気がしたのです。
少年の心は興奮で弾みます。
でも、どうやったら力を使えるのでしょうか。
物は試し。
少年は声を張り上げました。
「時間よ、止まれ!」
その瞬間、少年は自分の中から何やらドクドクと流れてきて、それがくうに弾けるような感覚を味わいました。
それから、音という音が止まりました。
鳥のさえずり、吹き込む風。
神社の時間が止まり、その近くの森が静まり返り……。
少年の力は、どこまでもどこまでも伝わっていきます。
その様子を、神さまは目をキラキラさせながら眺めていました。
少年が、ここまで力を発揮するとは思っていなかったのです。
あっという間に地球全体が、少年の力ですっぽりと包まれました。
神さまはすっかり感動しながらその様子を見ています。
けれど、だんだん何も変化のない世界を眺めているうちに、あくびが出ました。
「たまには静寂もいいのぅ」
神さまはそう呟くと、スゥスゥ居眠りを始めてしまいます。
――困ったことになったのに、神さまは眠ってしまったのです。
困ったこととは、まず、少年自身の時間も止まってしまったことでした。
せっかく時間を止めれても、これでは意味がありませんね。
時間を止めれたことに、少年自身も気づいていないのですから。
次に、神さまは少年に時間をもとに戻す力を与えませんでした。
だから、いつまでたっても、時間は止まったまま。
神様直々にしなければ、もとには戻りません。
ところが、とうの本人は夢の中。
最後に、地球全体に影響するほどのことをしてしまったので当然、偉い神様が気づかないわけがないのです。
「こらあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
神さまが羊と空をのんびり泳ぐ夢を見ていたとき、それを消し去る怒鳴り声が、響き渡りました。
神さまはビックリして飛び起きます。
「何事じゃ?」
すると、目の前には腕を組んでこちらを睨んでくる、偉い神様がいるではありませんか!
ものすごい目力に、神さまはすっかり小さくなってしまいます。
「地球の時間を止めていいわけがない!!!!」
「ひゃいっ!」
偉い神様の怒りで、雲がぐらぐらと揺れ、雷もゴロゴロ近くの空に光りました。
神さまのおでこに、ツゥっと冷や汗が流れます。
「私の力は、止まった時間を動かすためにあるのではないのだ!!!! お前の力も、人間を救うためのものであって……」
どうやら地球の時間の流れは、偉い神様がもとに戻してくれたようです。
地球にとってはありがたいことですが、神さまにとっては言い逃れ出来なくなってしまいますから、嬉しいことではありませんでした。
さぁ、長い長いお説教の始まりです。
その頃地上では、少年が恥ずかしそうに顔を赤らめていました。
あんなに大声で叫んでしまったのに、鳥のさえずりは聞こえるわ、向こうの方で人が歩いているのが見えるわで、いつもと変わらなかったからです。
何か湧いてきた気がしたのに。
少年は知る由もありません。
自分は本当に地球全体の時間を止めて、その上自分に力を与えた神さまが今、お説教を食らっているなんて。
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