5日目

少し長めの立ち読みを終えたあと、朝日が登る頃、私はパンを手にコンビニをあとにした。


私「朝日があたたかい。なんてありがたいんだろう」


ミラ「太陽の偉大さをしみじみ噛みしめるご主人でしたとさ」



まんじりともせずに待っていたテントのもとへ帰る。


パンを食べながら今日のルートを大雑把に確認。


私「距離的に郡山市あたりまでかな。まだ県内を出れないな」


ミラ「福島県は広いですねぇ」


荷造りをすませ、自転車に装備。

そこまで長い時間はかからない。


私「うーん、尻が痛いなぁ」


ミラ「大丈夫ですか?」


私「なかなか辛いものがある」


そうはいいつつも、我慢できないほどではないので前に進み続ける。



途中、『安達ヶ原ふるさと村』という公園に立ち寄った。


私「ここには鬼婆の伝承があるそうだ」


ミラ「オニババですか!こわいですね」


私「今なお、どこかにいるのかもしれんな」


ミラ「まさか」


園内には古い屋敷がぽつりぽつりと点在している。

入園料は無料だが、ほとんどひと気はない。


私「閑散としたものだな」


ミラ「だれもいないですね〜」


私「まるで廃村みたいだ。少し周りを散歩してみよう。」


ミラ「なにかあっちに石碑みたいなのがありますね」


私「『黒塚』と書いてあるな」


近くまで行ってみる。墓石のような大きさだ。



「ここには鬼婆とよばれた、ひとりの母親が眠っているのです」


後ろから声がし、振り向いてみると、20代そこそこくらいの女性が立っていた。


温和そうな顔立ちだ。


私「そうなのですが。ここに没したのですね」


女性「はい」


私「先程伝承を見ました。悲しい物語ですね。現世にも、同じような物語に沿ってしまった人をたまに見かけます。良かれと思ったことが思わぬ結果を招き、立て直そうとすればするほど狂ってしまった因果を」


女性「私もその一人かもしれません。因果の、結果のひとつ」


私「あなたは・・・」


女性「自己紹介するほどのものでもありません。わたしはただの野次馬。時代を経てしまえば、どんなに親しかったものも、遠く遠くなってしまうものです」


私「そうですね。今の、あなたと私のほうがずっと近しい」


女性「では」


私「はい」


女性は去っていった。



ミラ「何だったんでしょう?」


私「知らない」



『安達ヶ原ふるさと村』をあとにした。



私「そろそろ腹が減ったな。あそこのスーパーに寄ろう」


ミラ「あいあいさー!」


半額で30円になっていたおにぎりを大量購入した。



私「非常にありがたい。いい買い物をした」


ミラ「半額にしても売れなかったら、このおいしいおにぎりたちも捨てられてしまうんでしょうね・・・もったいないです」


私「そのとおりだな。世界の食糧危機もなんのその、日本人は食べ物を軽んじ、捨て続ける。愚かで痛ましいことだ。戦時中の食べ物のありがたみを忘れてしまったのだろうかな」


ミラ「もったいないおばけがでますよ!」


私(さっき、それみたいなのが出たよ)



いくつかを晩飯の翌日の朝食用に残し、スーパーのフードコートでおにぎりを3つ食べた。食べ終わって、休憩がてらフリーの茶をすすっていると、ふと旅に出たという実感が湧いてくる。

まだ県内すら出ていないが、景色はもはや私のあずかり知らない土地だ。



遅めの昼食を終え、その後は国道4号線をひたすら南下した。


だんだん夜光が目立ちはじめた。

暗くなったのもそうだが、店やビルやマンションなど、煌々とした人の営みの光が多くなってきたのだ。いつのまにか郡山市の市街に到達していたのだ。


疲れと尻の痛みが限界になってきたので、ひと気は多いがやむを得えない。

ここらで一泊することにした。


私「この公園にするか。水道もあるしトイレもある」


ミラ「はーい!本日もお疲れ様でした」


私「ミラもおつかれさま。さて、テント張って飯食って歯ぁ磨いて寝ますか」



その通りに行動し、1日が終わった。

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脱輪 @fragileruins

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