4日目

ようやく忘れ雪は去ったようだ。

雪は止んでいた。


私「ふぅ、なんとか出発できそうか」


ミラ「いよいよ、本格的に旅出ですね」


私「そうだな。用意は良いだろうか。後戻りはできないぞ」


ミラ「ボス戦前のメッセージみたいですね」


私「実に的確な形容だ。では、行ってきます」


祖父母が後ろで手を振る。

私は一度振り返って、手を振り返した。



しばらく黙々と走り続けた。


時折ミラのナビゲーションに応えて、自転車を走らせる。



私「近道だと言うが、また変な奥地へと入っていってしまったぞ」


ミラ「こんなはずでは・・・ごめんなさい、引き返しますか?」


私「まぁ、これも一興だろう。このまま行ってみよう」


ミラ「どちらが楽かという点でルート選びするのは難しいですね」


私「そうだな、単純な距離では測れないからね。基本的には、アップダウンの少ない道や信号の少ない道、車通りの少ない道がありがたいな」


ミラ「むむむ、精進いたしますー」


私「頼んだ。まぁ、なるべくなら楽な道が良いが、そうじゃなくても別に構わない。それはそれで道中の楽しみだからね。楽な道ばかりが最良とは限らないさ」


ミラ「旅人らしい意見ですね」



その後、道は本線へと合流し、国道をしばらく走った。


私「もうそろそろ総走行距離が100kmだ」


ミラ「お、もうそんなに!」


私「サイクルコンピューターを買っておいてよかったな。そんなに高いものでもないし、便利に思えるよ。1日のペースが把握できたり、残りの距離がわかるのはいいね」


ミラ「そろそろ暗くなってきましたねー・・・って雪!?」


私「あ、雪だな。また降ってきたのか・・・」


ミラ「時間的にも、そろそろ寝床を決めませんか?」


私「賛成だ」


国道をはずれ、左側の方の道を行ってみる。


私「初の寝床探しだが、さてどんなところがいいか・・・」


ミラ「あそこにふるびた小さな神社がありますよ」


私「ふむ、いいね。ひと気も無さそうだし。お借りしようかな」



神社の境内、石段を登った先の拝殿の周りには充分なスペースがある。

参拝し、お借りする旨を報告。


私「さぁ、初のテント設置だ。とは言っても・・・」


私はテントを広げる。

折り畳み傘のような構造で、頂点部分をぐいっと持ち上げたら形ができる。ペグを打つ必要はないので、設置完了だ。

ジッパーを開けてなかに荷物を放り込む。


私「設営完了だ。手軽だな」


ミラ「はやっ!テントってもっと骨組みとかごちゃごちゃやって、手間がかかるイメージでしたが、今はそんな便利なものがあるんですね」


私「人の技術の進歩はめざましいな」


中に入ってみる。二人用だから、荷物をいれても充分寝るスペースがある。ちょうどいいだろう。


ミラ「へー、中は案外広い気がします」


ミラも続いて中に入ってきた。入り口を閉めて、ランタンをてっぺんにつけてアルミの銀マットを敷く。100均のぺらぺらシートだが、無いよりはマシか。



私「さっきスーパーで調達してきた焼きそばをたべるか。」


ミラ「そんなんで足りますか?」


私「うーん、消費カロリーを考えると足りていないのかもしれない。少食だとは言え」


ミラ「明日からはちゃんと食べましょう!」


私「うん」



ミラと話をしたりして、時間は午後9時。眠気がやってきた。


私「ちょっと寒いが、寝ようかな」


ミラ「私にも体温があったら人肌で暖められるんですけどね・・・おやすみなさい」


私「おやすみ」



体は疲れていたのだろう、すぐに眠りについた。



・・・・・・。


ふと目が覚めた。


私「寒っ!」


防寒は万全のはずだが、それでも通用しない夜明け前の気温だった。

突然の私の悲鳴に、眠らぬ少女のミラが驚いている。


ミラ「だ、大丈夫ですか?」


私「こりゃだめだ。死にます」


私はテントや荷物をそのままに、ショルダーバッグだけをカゴに入れて自転車で飛び出した。



たどりついたのはコンビニだった。



私「ここで匿ってもらおう・・・」


ミラ「やむを得ませんね」


苦笑いのミラだった。



そして結局、日が昇るまでの2時間近く、私はコンビニで立ち読みし続けたのだった。

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