空き地にある異次元サークルの冒険者

ちびまるフォイ

灯台下暗しの別世界

何気ない空き地に不自然なサークルがあった。


周りは雨が降って、やや黒くなった土色をしているのに

なぜかそのサークルだけは雨に濡れた形跡がなかった。


「……なにか置いてあったのかな」


空き地には何もない。

雨をしのぐものを置いて、ここだけ濡れなかったとかいうわけでもない。


近づこうとしたとき、足元にあった石を蹴とばしてしまった。


「あっ」


前に飛んだ石はサークルの中に入ると瞬時に消えた。


もう一度、今度は手で石を投げ込んでみる。

また石はサークルの中に入ると消えてしまった。


「す、すげぇ!! なんだこれ!?」


思わずツイートしてしまった。

動画付きだったことで誰もが驚いて、空き地は人だかりができた。


みんな石をサークル内に投げ込んでは、あっという間に消えるのを見て驚いていた。


「どうなってるんだ」

「あれが異世界の入り口なのか」

「石が一瞬で消えたぞ」


わいわいと騒いでいると、今度はテレビクルーがやってきた。


「はいはい、一般人のみなさんどいてくださいね。

 テレビの取材が入りますよっと」


やじうまを押しのけテレビクルーとタレントがカメラの前に立つ。


「はい、ということで、ネットの噂を探検し隊!

 今日はネットで噂のこのサークルにやってきました!」


タレントは近くの石をぽいとサークルの中に投げ込む。

サークルのエリアに入った途端に石は消えてしまった。


「わぁ! 噂通りです! このサークルに入ったものは消えてしまいます!

 では、今度は私が、この中に入りたいと思います!」


これにはやじうまもぎょっとした。


「テレビの前のみなさん、安心してください。準備はばっちりです。

 腰には命綱を巻きましたし、スマホのGPSも大丈夫。

 念のため、場所特定のチップも頭に埋め込んでいます。

 世界の何処に行っても必ず見つかりますよ」


「お、おい! お前さん、本当にあの中に入るのか!?」


「もちろんです。今のテレビに求められているのは新鮮な驚きですから」


タレントはサークルの中に足を踏み出した。

腰に巻いていた命綱は一瞬でちぎられて、タレントの姿は消えた。


スタッフはすぐにGPSやらチップやらで情報の特定を急いだ。

けれど、一向に晴れない顔色に結果がどうだったかは察しがついた。


「おい、どうして見つからないんだ!?」


「わかりません! GPSのエリア外にいったのか……。

 電波が途絶えたか弱くなってしまったのかもしれません」


「カメラ止めろ! こんなの放送できないよ!」


しばらく手を尽くしたクルーだったが、あっさり撤収準備を始めた。


「あの、探さないんですか」


「探す? もう十分探したよ。GPSの電波も何度も探したし

 スマホの電波だって届いてないし、これ以上探す手立てはない」


「ありますよ! あのサークルの中に!!」

「それは……」


「なんというか……我々は他人なので……」


「あんたたちがけしかけたんだろ!?

 中に入ったタレントさんだって、喜んで入ったわけじゃないはずだ!」


「しかしねぇ……」


テレビクルーは自分たちに矛先が向いたとたんに顔色を変えた。


「もういいです! 俺が行きます!

 罪の意識も、人名きゅじょの意識もないようなあんたらは

 そこでずっと見ていればいい!」


長丁場を予想して食料から飲み物までサバイバル道具を背負い、

サークルの中へと一歩踏み出した。


足の裏にわずかな感触がしたかと思った瞬間、目の前の風景は一変した。


「ここは……どこだ……?」


周囲はどこまでも続くようなだだっ広い荒野が続いている。

岩石がゴロゴロと転がって視界を阻んでいる。


「どこかの惑星へ転送されたのかな……」


足の裏を見てみると、何か虫でも踏んだような跡があった。

生物も生息しているのかもしれない。


「おーーーい!! 誰かいないのかーーーーー!!」


ありったけの大声を叫んでも、持ってきた照明弾を撃ってもダメ。

人ひとり見当たらない。


「いったい、ここはどこの惑星なんだろう。

 まさか別の星にワープするなんて思わなかった」


双眼鏡で外の気配を見ようとしたとき、

地鳴りのように大きな声が反響してびりびりと響いた。


『我々が間違っていた! 私たちが助けに行かなくちゃいけない!』

『失踪した人を助けに行く! これ以上のドキュメンタリーはない!!』

『みんな、行こう! 我々が助けにいくんだ!!』


聞き覚えのある声が地面を震わせる。


「ま、まさか……」


どしんどしんと、地震のような揺れが近づいてくる。

周囲が影に包まれたとき、頭上を見上げる。


「あっ……」


空から視界に収まらないほど大きな足の裏が迫っていた。





「ここはいったい……!?」


サークル内に入って急速に縮んだテレビクルーは周囲の状況に驚いていた。

足の裏で踏みつぶした何かに気付くのはもっと先になる。

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