第7話 記憶






「…知らない天井ですね」


目を開けた少女は初めにそう呟いた。

アグネスの話によると、こいつは赤いドレスを見た瞬間苦しみだし、気を失ったらしい。



それから約半日。

少女はアグネス宅のベッドで目を覚ました。少女が寝ている間、俺は少女が倒れた理由を考えたのだが…よく分からない。


「私、なんで寝てるんでしょう」


ベッドの横にいる俺に、顔だけ向けて少女は問う。


「……おまえいきなり苦しみだして、倒れたんだよ」


「………」


少女はいきなり黙り込む。たぶん、何かを考え込んでいる。


「あ、思い出しました」


数秒経ったあとに少女はそう呟いて、スっと体を起こした。


「赤いドレスを見た瞬間に、なんか誰かの声が聞こえて…」


「声…?」




「それは、フラッシュバックじゃないかしら」


俺の背後から、アグネスが声をかけた。


「フラッシュバック?」




▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶




キョトンとするフルークさんを見て、アグネスさんはため息をつきます。


「これだから、脳筋兵士は…」


フルークさんはカチンと来たようですが、何も言い返せず黙っています。おもろい。



「過去になんか、トラウマ的な出来事を思い出しちゃうあれよ。赤いドレスでそれを呼び起こしてしまったようね…ごめんなさい」



アグネスさんは申し訳なさそうな表情で語ります。


「い、いえ…」







その後、アグネスさんが「お詫びになにかご馳走するわ!!」と言って、夕ご飯を作っていただきました。

最強に美味しかったです…。


その上、今晩は泊めてくれると言ってくれました。フルークさんの家よりかなり王宮に近い位置にあるのでありがたいです。



その夜、フルークさんと私は、私たちが泊まる部屋でこそこそと話し合っていました。



「もし、本当にフラッシュバックってやつが起こったなら、おまえの記憶の大きな手がかりになるんじゃないか…?」


「私もそう思ったのですが…聞こえてきた声は途切れ途切れで何を言っているか、分かりませんでした…」


「そうか…そうだよな」


フルークさんは、腕を組んでうーんと考え込みます。


「でも、なにか、喜んでる風に聞こえました」





▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶




「喜んでる?」



俺は、つい聞き返してしまった。

アグネスによると、この少女はトラウマ的な出来事を思い出して倒れた。なのに喜んでる…?


この少女に打ち込まれたゾンビ化の薬だけ、他の個体と違う。だから、記憶を辿れば何か謎がわかるかと思ったら、むしろ謎が深くなってしまった。


「どういうことだ…??」




俺が考えていると、コンコン。とノックの音が聞こえた。


「入るわよー」


その声と同時にドアがあき、アグネスが入ってきた。手には服を持っている。


「ごめんなさい。あなたが寝ている間に勝手に採寸しちゃったわ」


そう言ってアグネスは、少女に服を渡す。


「あ、ありがとうございます…」


「お金は結構よ。じゃあね」


アグネスは部屋を出ていった。




▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶



試しに貰った服を着てみると、感動を覚えるほどにピッタリでした。


彼女にはお世話になりっぱなしです。


「これで、準備満タンだな…」



フルークさんは小さい声でそう言いました。


「はい…」


「明日の朝、出発しよう」


「はい…」


「明日の朝に出れば、夜には王宮につく。まずは地下の武器庫に行って、武器を調達してから王室に向かう」


「分かりました」


なにか…現実味が増してきた気がします。王宮に突入するなんてこと、頭でわかっていても現実味がありませんでしたから。





その後も私たちは、部屋で話し合っていました。

アグネスさんが、扉の外にいたことに全く気づけず。



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死者は踊る こんぽた星人 @Conpota_CacAo

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