冷百合すみれⅡ
***
私と梨花の二人だけの秘密。
それはある場所で行われる。学校の裏手にある高台の古い神社。
ここは高台にあり、物凄い年季が入った神社の為、人の入りが少ない。というか、ここに人が来ている所を未だかつて見た事がない。
住職ですら見かけない徹底ぶりだ。
それに単にお賽銭を上げたいのであれば、この神社より低く、近く、新しい神社が下の方にあるからみんなそっちに行く。
ごそごぞ。がったん。
「よいしょっと」
私と梨花はいつもの様に手馴れた手つきで、お賽銭箱のさらに向こうの祭具殿の戸を勝手に開けて中に入った。
二人とも入るとしっかりと戸を閉めて、奥に進む。
中にはその神社の神様が派手に堂々とした佇まいで祭られていて、ろうそくの淡い光り一本だけが儚く揺らめいている。
「……」
荷物を乱雑に置いて私達は向き合う。
ここが私達の儀式の場だ。
お互い一気に緊張がこみ上げてきて、突然黙りこける。
もう、何回もここに来ては、その儀式をしているはずなのに、未だにこの感覚だけは慣れない。
数分が経って、心臓の鼓動が頂点に達し、私は梨花の両肩にゆっくりと両手を置いて言った。
「……いい?」
眼前の林檎みたいに真っ赤な顔の梨花を見て、きっと今私もこんな風に真っ赤な顔してるんだろうなと思考する。
聞かれて梨花は下を俯いたまま、こくんと頷いた。
それを確認した私は、そっと両肩の手をその線に沿って、下に向かってゆっくりなぞっていく。
「……んっ」
手が腰の辺りに到達した位で、梨花は身体をびくんとさせて、小さく声を出した。
季節は冬。厚着をしたゆっくりなぞる梨花の身体はとても硬い。
(はぁ……可愛い梨花ぁ……)
顔を紅潮させて、恥ずかしいのか俯くが、その目はどこを見ていてばいいのか分からない様子で、キョロキョロと視線を下の方に向ける涙目の梨花を見て、私の中の感情が激しく歓喜する。
徐々に身体が熱くなってきて、私を奮い立たせる。
首元に巻いた赤いマフラーに手をかけると、それを静かにくるくると外してさっと床に置いた。
「梨花……」
名前を呼んで一気に引き寄せて、思い切り梨花を抱いた。
梨花の香りが鼻腔を
「暖かい……」
私の言葉にうんと頷いて、答えるように梨花も私を抱いた。
私達二人だけの秘密。それは、人の寄り付かない神社でこうして、普通の女の子は絶対にしない事をする事。
私達はこの行為の事を儀式と呼んでいる。
儀式をする様になったきっかけは、親からの重圧、それに伴うプレッシャーから元気がなかった私に、梨花というそれでも頑張ろうと思える存在がいつも近くにいてくれたからだと思う。
この頃の私は受験生と言う事もあり、親からの期待からか勉強が嫌になっていたのだ。
梨花だって同じ受験生なのに、自分の事で大変なはずなのに、それでも梨花は私を励ましてくれたし、一緒にもいてくれた。
凄く嬉しかったし、一緒にいる事は楽しかった。
最初はおふざけで顔と顔を近づけてみたり、手を握ってみたりしたけどある時、気づいてしまったんだ。
私のこの好きは……普通の好きじゃない。
同じ年頃の子達が抱く好きではないと。
他の子が異性に抱くその想いを私は、梨花に抱いていた。
私は梨花を異性を見る目で見ていたんだと。
それに気づいてからは、それを悟られないように隠して梨花に接してきた。
でもそんな偽りの日々は長くは続かない。
一緒にいればいるだけ、惹かれていく。梨花の事がもっと好きになっていく。
こんなに好きなのに。どうしようもなく好きなのに。
きっとこの事を知ったら、梨花は私を嫌いになる。友達でもなくなる。
それだけは嫌だったのに……
私は子供だ。未熟で間違えだらけのどうしようもない愚者だ。
その日、私はいつものじゃれあいに乗じて、綺麗なピンク色をしたプルプルの唇をーー奪った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます