愛しの悪女さん~Girls’Side~
水無月二十日
Case1
冷百合すみれ
「すみれ~置いてくよ~」
夕方の教室にぼっと立ち尽くす私を梨花が呼んだ。
ばっと我に返ってあっ今行くと机の上のカバンを強引に掴んで教室を扉に向かう。
「もぅ~最近すみれぼっとし過ぎだよ?」
扉の前で待っていてくれた梨花が肩の力を抜いて、はぁ~と溜息をついて言った。
「ごめんごめん」
言って私は梨花に追いついてその肩に両手を乗せると、行こう~と陽気に昇降口に強制的に出発させる。
もぉ~ちょっと早いよ~等とじゃれつきながら、軽やかに昇降口にやってくる。
私の名前は、
昆布を摂取すると髪が真っ黒になるとか聞いた事があるが、給食でやたら昆布が出てくる事が関係しているか分からないが、真っ黒の髪に後ろをみつ網に縛った、黒縁のまんまるでか眼鏡をした一応、学年では毎回成績上位の優良生徒。
いわゆるガリ勉っていう奴だ。勘違いしないで欲しいのは、ガリ勉になりたくてなったんじゃない。
正直、私だってクラスの中心にいるイケイケ連中みたいに遊びたいし、はっちゃけてみたい。
だけど、それは叶わない。
うちの家庭は特にお父さんが頑固で厳格な人だから、素行を損なうような事はさせてもらえない。
一応、期待されているらしいが、そんなのただのプレッシャーでしかない。ただただ息苦しいだけだ。
幼少の頃から勉強を強要されてきた私は、いつしかそれが私のためであり、必要な事なんだと今まで特に何の疑問も持たずに生きてきた。
そして今の私がいる。つまり、私のガリ勉は両親が作ったものなんだ。
クラスには中学生にも関わらず、全くそう見えないオシャレな女子達がいて、そんな子達を見ていると当然憧れる。
しかし、そういったファッションやオシャレに今まで触れてこなかった私は、そういうものにとにかく疎い。
結果、地味な容姿に地味な格好のただ成績だけがいい地味女の誕生という訳だ。
隣のこの子は私の友達の
気さくで話しやすく、趣味や嗜好も合うし、学力は梨花の方がいいが、そんな姿にも憧れていた。
世間一般ではこういう存在を親友と呼ぶだろうが、やはりそれはどうしても正解で梨花は私のかけがえのない親友だ。
親友ならではの二人だけの秘密も共有しているし。
「ねぇ……梨花」
昇降口に辿り着くと、下駄箱を開けて物静かに梨花を呼んだ。
「ん~? どした?」
隣で下駄箱から靴を出して、それを履きながら梨花が私を見た。
「今日……行かない?」
羞恥心。照れ。気まずさ。そのどれが正解かなんて至極どうでもいい事だが、それでもあえて言うならその全部だろう。
私は物凄い引きつった顔をゆっくり横に移動して梨花を見た。
それを聞いた梨花の顔は何かを考えて目線が上に上がる。鼻からふーんと息を吐き出して、眉をハの字にして言った。
「早くない? 一昨日したばっかりじゃん」
「そう……なんだけど、さ、何かしんどくて」
言って私の視線は立っているすのこに向いた。
数秒沈黙が流れて、そんな私の姿を見かねたのか、梨花は私に近づいてきて下から覗き込むようにして言った。
「分かったよ。ちょっとだけだからね?」
すのこを見る視線が自然と梨花の顔に向き、明るくなった。
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