雨を取る窓

安良巻祐介

 

 僕の部屋の窓は、うっすらと青みを帯びた硝子を入れて、水に縁のある文字を隅に彫りつけて、いくらか雨の来やすいようにしてある。

 雨は、安らかである。土砂降りのたぐいでさえそう思う。

 水の匂いと、斜線と、降る音と、そのいずれもが、心を洗ってくれる。

 寝床に就いて、眠るか眠らぬか、うとうととしている時に、窓の外にそぼ降る小糠雨の音を聴くなど、至福である。

 休日の昼、机に肘をついて、一人でぼんやりしている時に、外で激しい雨が降りしきっていたりすると、とても心地がいい。

 雨は、窓で区切られた世界の姿を曖昧に、美しくする。

 青く霞んだ街の様子は、色硝子で造った模型類のように綺麗だ。

 その上に昇ってゆく月を、雨は、レモンイェロウのメダルにする。

 雨模様に鎖されたオブジェクトには、薄く昏みがかった陰鬱な気配、触れるに心地よい、かすかな冷たさがある。

 窓につく水滴も好きだ。

 びっしりと、窓が水晶粒を孕む。点々と散らばり、面に即席の数珠飾りをつくる。

 それらは、間を置かず下へ流れて行って、窓に抒情的な涙を流させる。

 常日頃意識の外にある、天空の遥か、雲の上の方から、その一粒一粒が降りて来るのだと考えると、少しばかりは心を地面から浮足立たせることもできそうな気がする。

 しかし、それはそれとして、雨の中に出て行くのは、僕は苦手だ。

 体がじめじめするし、ズボンの裾が濡れて、風邪をひいてしまうから。

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雨を取る窓 安良巻祐介 @aramaki88

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