昔抹香

安良巻祐介

 

 部屋の隅を小さな爺さん婆さんが行き来していると思ってよく見たら、ただの家蟻だった。

 なんでそう見えたかと言うと、そいつらが皆、手に手に団子のようなものを捧げもって列を作っていたから。それから、頭だけが粉を振ったように、白くなっていたから。

 気味が悪いので線香を持ってきて、丁寧に一匹ずつ焼き潰していたのだが、気付いたらいつの間にか仏壇に火をつけようとしていて、何か大きな声を上げている家族に、取り押さえられてしまった。

 いま私がこの黒檀色の四角い病院に押し込められているのには、そういう不思議で理不尽な経緯があるわけです。

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昔抹香 安良巻祐介 @aramaki88

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