第3話日常という宝物

玉三郎さんの目的が分かった以上、私も何かを手伝いたい。

そんな気持ちが私の中で大きく、大きくなっていった。

私を不安にさせた報いを受けさせたいというのもあるけど、何よりも玉三郎さんを早く取り戻したかった。そして、少しでも疑った玉三郎さんに、しっかりと謝るためにも、私の手で、何としてでも捕まえたい気持ちになっていた。


そう、私と玉三郎さんの日常を、取り戻すために。


だから、私は山田さんの家にも行ったし、それ以上に色々話を聞いて回った。玉三郎さんが聞けないところにも、私は聞いて回る事が出来る。


いろんな声を聞いて回り、ついにある男の存在を突き詰めた。


そして、その男は今、事もあろうか私たちの隣に住む、鈴木のお婆さんの家を狙っていた。

いつも私に優しくしてくれる鈴木のお婆さん。


一人暮らしのお婆さんの家に忍び込むなんて、許せない。何よりも私の大切な時間を奪った罪は、許せない。


背後からそっと忍びより、男に向かって飛び掛かる。

その男の背中は、小さく、とても貧弱なものだった。


***


「うお! なんだ! いってぇ! 痛いだろ! この! 何だ!?」

男は突然の痛みに、思わず大声をあげたようだった。


体の大きさでは負けてしまう。

力もかないっこない。


だから、私は思いっ切り噛みついてやった。

今も暴れる男にしがみつき、必死に爪を立てて抵抗した。


「いてぇ! 痛いって! おい! コラ! 離れろ! コイツ!」

「そこまでだ! 佐藤! 住宅対象侵入窃盗罪の現行犯で逮捕する! いけ! 智也、確保だ!」

小さな男の声に、愛しい声が重なった。

逞しく、そして優しい。私が愛してやまない声。


「こら、ミケ。ダメじゃないか。ちゃんと留守番してないと。でも、偉かったぞ。鈴木さんを守りたかったんだな」

「その子が、玉三郎さんの愛しのミケちゃんですか? ホント、美人さんですね」

「だろ? 智也、そいつを先に署に連行しておいてくれ。俺は、奥で寝てる鈴木さんに話してから、ミケを家に連れて帰るよ」

「わかりました。ちゃんと来てくださいよ? 玉三郎さん、直帰が多いって有名だから」

「いや、まだ勤務中だし……。でも、これでやっとミケと遊ぶ事が出来るよ。なぁ、ミケ。さみしかったよな」

私を抱き上げた玉三郎さん。その愛しい顔に、思わず甘えた声を出してしまった。


「ごちそうさま。じゃあ、先に戻ります」

「ああ、頼んだよ。よーし、ミケ。あとで、ご褒美な」


こうして、鈴木のお婆さんが寝ている間に解決したこの事件を、ご近所では『玉三郎事件簿・居眠り婆さんとミケ』として噂されていった。


でも、そんなことはどうでもいい。

私と玉三郎さんの日常が、こうしてやっと帰ってきたのだから。


玉三郎さんの優しい手が、私の耳の後ろをなでる声につられて、私もまた甘えた声をあげていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いってらっしゃい、玉三郎さん あきのななぐさ @akinonanagusa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ