第2話疑惑と不安と焦燥と

あれは、一緒に暮らし始めて、ちょうど半年がたった時だった。


いつものように帰ってきた玉三郎さんは、とても真剣な顔で何かを考えているようだった。私がさそっても、一向に相手をしてくれず、私はその変化に戸惑いを覚えて、とても不安になってしまった。


次の日の玉三郎さんも、遅くに疲れて帰ってきたけど、前の日のようではなく、私にかまってくれていた。いつものように、いつものごとく。

でも、それはうわべだけ。気もそぞろに、玉三郎さんは寝床に一人で入っていった。


やりきれない思い。

漠然とした不安。


出来ることならぎゅっと抱きしめたい。抱きしめて欲しい。ただ、それだけで安心できるから……。


そんな思いや願いを、疲れているのだと思い込むことで、無理やり押し込めていた。

でも、そんな日が続くと、私も自分をだませなくなってしまった。


ある日、私は玉三郎さんの後をつけることにした。


後ろめたい気持ちが、私を追い抜いて走り去ったのに、いつの間にかまた追いかけてきていた。


でも、私はそんな気持ちを振り切って、玉三郎さんの後を追うことにした。


遠くから離れていないと、玉三郎さんに気付かれてしまう。私は細心の注意を払って、玉三郎さんを追い求めた。


幸い、玉三郎さんがどこを回っているのかは、色んな方面から聞こえてくるから知っている。街の有名人でもある玉三郎さんの行動は、みんな知っていることだった。


いつものように、ご近所を回る玉三郎さん。時折、家々をのぞいてはそこに住んでいる人達の話を聞いているように耳をそばだてている。

山田さんちの犬ですら、離れたところで何かを尋ねているようだった。


途中、仲間の雄がやってきて、一緒にいろんな場所を歩き回っていた。


何かがあった? 誰かを探している?


それが何かわからない。

不安な気持ちは、不吉な予感を連想させる。


もしかして、玉三郎さんがいなくなる?

そんなことあるはずない。


信じる気持ちが蓋をしても、不安な気持ちは泉のように沸き起こってくる。

信じたい。でも、玉三郎さんには聞けない……。私がこんなことを思っているなんて、きっと玉三郎さんは考えていない。


だから私は、毎日玉三郎さんの後をつけるようになった。不安な気持ちが、後ろめたさを押し倒し、どんどん強くなっていた。


そんなある日、佐藤さんの家の前を通りかかった時、偶然玉三郎さんの話を聞く事が出来た。


この日ほど私は、ご近所の噂話に感謝したことは無いだろう。


それを聞いた瞬間、私は安心した私を見つけ、そして私をちょっとだけ嫌になってしまった。


玉三郎さんは、やっぱり玉三郎さんだった。


どこまでもお人よしで、どこまでも正義感が強くて、どこまでも真面目。


玉三郎さんが追っていたもの。

それはご近所を荒らしている空き巣犯だった。もう何件もやられているらしい。

玉三郎さんが愛してやまないこの街で、そんなことが起きていた。

玉三郎さんにとって、それは許すことのできない出来事だと思う。


だから玉三郎さんは、今必死に犯人を追っているのだろう。


でも私はそんな不幸な事が起きても、私とは直接関係がなかったとわかり、本当に安心していた。

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