NPC豪華客船にはご乗船いただけません

ちびまるフォイ

圧倒的…! 圧倒的探り合い……ッ!!

毎日同じような毎日を繰り返し、曜日感覚すらもなくなったある日。

地元の漁港に不釣り合いな豪華客船が止まっていた。


「なんじゃろうなぁ、あれ……」

「毎年ここに来るんじゃよ。いったい何なのかのぅ」


地元の田舎臭い漁師たちは目を白黒させていた。

俺の目にはその豪華客船が何か別の世界に連れ出してくれるかもしれないと

開きっぱなしになっている入口へと向かった。


「誰もいないのか、不用心だな」


停泊している波止場にかかる橋には誰もいない。


――もしかしたら、バレないかもしれない。


悪魔のささやきが聞こえたような気がした。すでに船へと進んでいた。

見つかって怒られたら間違えたとかすっとぼければいい。

豪華客船に乗れるなんて、普通に生きていてそう経験できるものじゃないから。


「ま、動き出しちゃえば引き返したりしないだろ」


船に入ると、センサーが感じ取りカウンタが「3」になっていた。

客船に乗り込むと、紛れ込んだのを気付かれないよう個室に入って時間をつぶす。

船が動き出したのを確認してから個室を出た。


「よし、これで豪華クルーズを満喫できるぞ!」


ちょうど船内放送が流れる。


『みなさま、本日はNPC船にご乗船いただきありがとうございます。

 紛れ込んでいる人間の皆さまと素敵なゲームをしましょう』


「えっ」


俺が入っていること、気付かれてたのか。


『今回、NPC船に紛れ込んだ人間のみなさまは総勢10名。

 このうち、クルーズを楽しめるのは5名様となっております。

 残り人数は船内のカウンタでご確認ください』


船内には入口で見た数字カウンターがいくつもあった。

船の中には普通の人間っぽいNPCが何人も行き交っている。


「これが……NPCなのか……?」


客は船外のプールに入ったり、映画を見たり、普通に歩いていたり。見分けはつかない。

まずは、自分以外の9人の人間に見つからないようNPCのふりをするしかない。


客船の決まったルートを同じ速度で巡回して時間をつぶす。


すると、客のひとりが声をかけてきた。


「あの、食堂はどこですか?」


焦らずに俺は自分の用意している返事を行う。


「今日はいい天気ですね、絶好の航海日和だ」


「そうですか、ありがとうございます」


客は去っていったが、あいつが人間に違いない。NPCが質問するか。

追いかけて羽交い絞めにした。


「おい! お前が人間だろ!」


「あの、食堂はどこですか?」


「NPCのマネをしたって……えっ?」


「そうですか、ありがとうございます」


客はNPCだった。羽交い絞めにされてもなお、同じように進もうとし続ける。

壊れたロボットのように同じ言葉を繰り返しながら。


「やっぱり見分けなんてつかないよ……」


諦めたとき、遠くからばしゃんと何か海に落ちる音がした。

NPCの足取りをキープしながら、そっと音の方向へ近寄った。


「オラァ!! どこに隠れてやがる!! 出てこい!!」


1人の客がNPCたちをどんどん海に放り込んでいた。


「どうせ誰がNPCで誰が人間かなんてわからねぇなら、

 俺以外のすべてを消しちまえばいい! あはははは!!」


なんて強引すぎる方法。

巻き込まれないように逃げたいが、慌てて逃げると人間だとばれる。

巡回ルートであるかのように、こっそりその場を立ち去ろうとした。


「よし、次はお前だ」


が、遅かった。

近くのNPCたちを海に放り込んだ男は俺の腕をつかんでいた。


「う、うわぁぁぁ!!」


無我夢中で男を突き飛ばすと、バランスを崩した男は手すりにぶつかり

そのまま背中から海へと落ちていった。



『9』



残り人間のカウンターが減った。

豪華クルーズを楽しむにはあと4人を追い出す必要がある。


人間カウンタが減ったことで、紛れ込んでいる人間たちも勝手がわかったのか

だんだんと人間カウンタを減らし続けていた。



『6』



「あと、1人か……」


あれから人間らしいそぶりをしているNPCは見当たらない。

変に探そうと動けば動くほど、人間らしさが出るので無理はできない。

同じ場所をぐるぐる回りながら、巡回ルートを変えている人間を探していた。


『NPCと人間の皆さま、豪華クルーズはお楽しみいただけていますか?

 申し忘れていました。規定時間内に乗船人数5人まで減らせなかった場合、

 皆さまは人としてその生が終わること、御留意ください』


「じ、時間制限あったのかよ!!」


時間制限さえなければ規定人数まで減らさなくても、NPCの振りしつつ満喫できたのに。

さっさと、あと1人の人間を追い出せば、人間としてクルーズを楽しめる。


こうなったら強行手段だ。

俺は船内の警報ベルを鳴らした。


ジリリリリリ!!!


目覚ましを40倍くらいやかましくしたベルが鳴り響く。

NPCたちはそれでも用意されている行動を顔色一つ変えずに繰り返す。


それだけに、その人の群れの中に慌てている人間はよく目立つ。


「あいつだ!! あいつが人間だ!!!」


フードを目深にかぶった男は警報に驚いて出口を探して巡回ルートを変えていた。

きっと間違いない。男を追いかけて背中に体当たりをした。


「お前が人間だな!! ついに見つけたぞ!!」


男を背中から持ち上げて、海に放り投げた。

これで規定人数まで人間を減らすことができる。


「あ……」


船から海に落ちていく男。

かぶっていたフードが外れて男と目が合った。

その顔は、あまりに俺にそっくりだった。


ばしゃーん。


水しぶきを上げて男は海の中に消えていった。



『6』



人間カウンタは減らなかった。


「どうなってる!? 人間を追い出したのに減ってないぞ!?

 今のは人間じゃなくて……俺に似せたNPCだったのか!?」


なんて悪趣味なことをしやがる。

それに警報で驚くなんて人間らしいしぐさがNPCにできるのか。

もう時間もないというのに……。


『まもなく、規定時間です』


「ああ、もうどうすればいい……このままじゃ時間がきてしまう。

 残り1人だけでいいから、人間だとわかる人がいればいいのに……!」


頭を抱えたそのとき、ずっと見えていた答えがわかった。


「いるじゃないか、確実に人間の人が1人……」


俺は艦長室へと向かった。

他のNPCもわざと連れて行って、カムフラージュに使う。人を隠すならNPCの中だ。


「おや? なんでNPCがこんなところに。

 艦長室はNPCルート含まれてないはずなのに」


数人紛れ込んだNPCに違和感を感じた艦長だったが、もう遅い。

NPCに紛れていた俺が飛び出し、艦長を抱きかかえた。


「ずっと艦内アナウンスしてるってことは、お前が人間だろ!!

 お前だけは確実に人間だ!!」


「う、うわ! やめろ!」


艦長を海へと放り投げた。

落ちる過程で艦長は拍手を送っていた。


「おめでとう、今度は上手くいったようだね」


艦長は水しぶきの中に吸い込まれて消えていった。



『5』



ついに、人間カウンタが規定人数まで減った。

これでやっと豪華クルーズが満喫できる。


この結果も想定されていたのか豪華客船は自動運行で世界を航海し続けた。

思う存分にクルーズを楽しんで、また最初の港に戻ってきた。


「ああ、本当に充実したなぁ」


船には人間らしいNPCもいたので寂しくなかった。

機械的なNPCと人間らしいNPCの2種類用意されているようだった。


人間カウンタ『5』を最後に見収めて、船を下りた。



『5』



人間カウンタは減らなかった。


「……あれ?」


もう一度船に戻ってみる。人間カウンタは『5』のまま。

壊れているのか。固定されているのか。


船に戻ったまま、悩んでいると停泊している船に1人の人影が乗り込んでいた。


「えっ……、お、俺……!?」


顔は俺そのものだった。

港には大きな豪華客船を見ながら話している地元漁師が見える。


「なんじゃろうなぁ、あれ……」

「毎年ここに来るんじゃよ。いったい何なのかのぅ」


口の動きで分かった。そして、まったく同じ反応をしていることも。

鈍い俺にもやっとわかった。わかってしまった。


「この船だけじゃない……この町の人ほとんどがNPCなんだ……!」


豪華客船は本物の人間をあぶりだすためのものでしかない。

それじゃあ、俺はいったい――。


船はNPCと紛れ込んだ人間たちを乗せて出港する。



『みなさま、本日はNPC船にご乗船いただきありがとうございます。

 今回紛れ込んだ人間は13人。規定人数5人まで減らし合いましょう。


 船が特定航路に達するまでに間に合わなければ、

 人間の皆様はそのままNPCになりますので頑張りましょう』



ああ、そうか……。

オリジナルの俺はすでに1度失敗してNPCにされていたんだ――。



「今日はいい天気ですね、絶好の航海日和だ」



俺は同じ巡回ルートを回って、NPCのようにふるまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

NPC豪華客船にはご乗船いただけません ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ