【重要】サービス終了のお知らせ。

あけた 。

0日目【重要】サービス終了のお知らせ。

「本当に細い木を集めて来てくれたんだな。ありがとう!

大した事は無いが、これはほんの気持ちだ。受け取ってくれないか?」


にこり、また同じ笑顔で微笑む。流石に何年もやっていると、飽きてくるものだ。プレイヤーは俺の手いっぱいに広がった金貨を受け取り鞄にしまってまた旅に向かった。


「気を付けて行けよ!」


ぶんぶん手を振ってプレイヤーを見送るも、プレイヤーはこちらを見ること無く進むので、また少しだけ虚しい気分になった。


── ここはMMORPGの世界。まあ詳しく言えばその内部。俺達は多分、NPCと言われる存在。俺はその1人で、名前はトム。一応日本人だし、別に名前あるけど。NPCには色々種類があって俺は依頼型。いつもいつも朝5時から昼12時まで何故か細い木を5本程集めている。


「おっ、俺の依頼聞いてくれるのか?」


このアプリがリリースされて以来、何年もここで依頼をしたり木を受け取ったりしている。


「じゃ、頼んだぞ。」


次のプレイヤーに1通り依頼内容を伝えて、また見送る。そうは言っても、さっきのプレイヤー早送りするばかりで内容を全く聞いていなかったのだが。…まあいいや、別に慣れているし。


「おーい、春凪クーン。」


後ろから誰かが俺を呼んでいる声がした。トムはゲーム上の俺の名前で、春凪は俺の本当の名前だ。きっと、本名で呼ぶという事はNPCの先輩だろう。


「もう俺代わるよ。」


振り向くと七瀬先輩だった。七瀬先輩はナツキという名前で昼12時から夜7時までイチゴ味の飴を3つ程集めている。時計を見ると、もう12時近くだった。


「じゃあ頑張ってください!」


「おー!春凪クンはお疲れ様。」


先輩に挨拶をして、俺は部屋に帰ることにした。NPC達はそのゲームのプレイヤーが入れない裏の3つの城で、重要キャラ①、重要キャラ②・依頼人、敵。それぞれ別れて暮らす事になっている。結構このゲームの城、豪華で好きなのだ。


「ただいまです。」


城に入って行くと、なんだかザワザワしていた。


「どうしたんですか?」


と、すぐ側に居たお婆さんに聞くとお婆さんはいつもの調子でゆっくり俺に話した。


「実はねぇ…このゲーム、サービス終了するらしいのよ…。」


「はぁ!?」


思わず変な声を出してしまう。いやいやいやいや、人気あるのに?朝5時でも人沢山のこのゲームが、何で。…でも、嘘では無いのは確かだ。このお婆さんはゲーム上ではかなりの重要な存在でストーリーの鍵となる噂おばさんなのだから。


あの噂おばさんがデマを広げるなんて有り得ない。よってそれは真実だ。


俺は混乱状態のまま、NPC専用のお知らせボードへと足を運んだ。ボードを見ると、確かに見える。大きな文字でサービス終了のお知らせ。と書かれた紙が。俺は目を細めると、内容を声に出して読み上げた。


『サービス終了のお知らせ。

毎度毎度お疲れ様です。この度20××年△月◯◯日を持ちまして____のサービスを終了させていただく事としました。これまで一緒に本作を作り上げて来て頂いた事大変有難く思います。このような判断になってしまった事、大変心苦しく思います。そして、大変お詫び申し上げます。』


読み上げると余計に現実感が増して、溜息が零れた。NPCとして生きている者達は、そのゲームが終わる時は別の所を探さなくてはいけない。出来るだけ条件が良いのを探さなきゃな…。いやいや、ここ以上に良いゲームなんてあるのか?


お願いだから夢で合ってくれ…!ただそれだけを願って、俺は部屋に入って、布団に飛び込んだ。

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