第一章8.5 『  』


  --------なんでこんなことになっちゃったんだろう?


 困惑、後悔、不信、不安、疑念、疑惑、、、絶望。

 少女は山のように積み重なる死体の上に一人。静かにつぶやく。


 ---------どうすればよかったんだろう?


 なぜ、なぜ、どうして。死人達に少女は問い続ける。答えなどないと知りながら。

 あるいはそうせずには精神を保てなかったからかもしれない。

 あるいは既に壊れてしまっているのかもしれない。

 

 ---------ねえ、どうすれば良かったの?


 涙声で訴える少女に、死人達は声なく語る。

 貴様のせいだ、貴様さえいなければ。

 憎悪、憎悪、憎悪、死人に口なしとはよく言うが、彼らの表情からは少女への怨嗟の声が

 はっきりと伝わってくる。言いしれぬ恐怖に足がすくんでしまう。


 ---------でも、私は、皆のことを!


 うるさい、だからなんだ、貴様の行いでどれだけ死んだ。

 少女の声は、怨嗟の前には届かない。憎悪は憤怒へと変わる。恨み言だった声が、少女の生を妬む声に変わっていく。

 死ね、死ね、お前が死ねばよかったんだ。

 死者達はさらに怨嗟の声を少女に投げる。それほどまでに少女の行いは、罪深いものだったのだろう。


 ---------私は、私は、、、、


 死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、繰り返される怨嗟の声。

 少女は血に染まった全身をぎゅっと抱きしめ小さく震える。それが少女にできる精一杯の抵抗。

 やがて憤怒は呪いに変わり、少女の体を蝕んでいく。

 血によって真っ赤に染まった全身が、黒く染まっていく。死人の呪いを吸い上げるように。

 そして髪は、白く、無機質なものに変わっていく。生命の色を感じさせないものに。

 

                タス

 ---------私は、皆を、救けたかっただけなのに、、、。



 紅く染まった丘の上で、少女は一人。少女を呪い、怨嗟をあげる者は多くあれど。

 少女の押し出すような嘆きと涙に、答える人間は、そこには一人もいなかった。

 そして少女はただ、無力な自分のことを、他の誰よりも、呪った。

 

 

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死神さんは救いたい 池谷 蓮 @iketani_ren

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