第7話名探偵くるみ

『リービーさんは…彼と…航とはどういう関係なの?』


ボクは想定外の質問に動揺していた。ただ喫茶店で女子トークをするだけだと思っていた。

それが、こんな重苦しい雰囲気になるなんて…

ボクは気持ちを落ち着かせると、話し始める。


「航とはただの友達だよ。さっきも言ったけど、朝倒れていたボクを助けてくれて、それで…」


「名前の呼び方」


「えっ?」

「彼のリービーさんに対する名前の呼び方がさん付けじゃないの。幼馴染だからわかるけど、彼は結構人見知りで、積極的なタイプじゃない。だから、女の子を呼ぶときは〇〇さん付けか、苗字で呼ぶの。でも、あなたに対しては…最初から呼び捨てだった。」



ボクはお昼の出来事を思い出す。

ボクが航にお昼を一緒に食べようと言った時、彼は何と言ったか。脳内でその時のセリフが再生される。


『俺は智也と食べるから。”リービー”は女子と一緒に食べればいいんじゃないか?例えば、くるみ達とかと。』


そうだ!転校初日なのに呼び捨てで呼んでいた。


「た、たぶん、私が外国人だったから、さん付けはやめたんじゃないかな?」


彼女は何も答えない。しばらく沈黙したあと、話を再開する。


「…質問があるんだけど、いいかな?」

「うん…大丈夫だよ…」

「お昼の時の会話から、二人で弁当を食べたみたいだけど、おかずは、何だった?」

「卵焼きとウインナーと、ひじきの煮物とあとは…」


「その弁当は、もちろんあなたがつくったのよね?二人分」


「そうだけど…」

彼女はボクの答えを聞いて、確信した表情をすると、こう言うのだった。


「じゃあ、転校初日で知り合いもいないはずなのに、なぜ二人分の弁当・・・・・・をつくってきたの?まるで、最初から航とお弁当をたべるのを決めていたみたいに。」


ボクはやっと気づいた。今の質問はボクの矛盾した発言を導き出すための、誘導尋問だったことを。


「それは…」

ボクは成すすべがなくなった。今、どんなこと言ってもこの状況は変えられない。

ただ…一つだけこの状況を変える方法がある。

それは…

”ボクが愛情の女神であると言うこと”


女神の特殊能力を見せれば、彼女も信じると思う。だけど、女神であることを説明するのは、対象者(今回の場合は航)などのごく少数に話すこととされている。


女神であることが不特定多数の人に知られると、人間の世界に居られなくなる。

女神自身に危険が及んだり、女神の世界にとって不都合なことが起こる可能性があるからだ。


この方法は最終手段。もうこれを使うしか…


「ボクは…本当は…」


ボクが真実を話そうとしたとき、後ろから声をかけられた。


「お~い。リービー」

「航!?」

ボクは驚いた。もちろんくるみも驚いている。


「母さんが、今日仕事で遅くなるって連絡があったから、今日は外食することになったんだ。それを伝えに来た。」


ボクはあっけにとられる。それを伝えて、何か意味があるの?ボクと航は一緒に暮らしているわけではないから、関係ない話なのに…


すると、くるみが驚いた口調で言う。

「ちょっとまって!今の話だと、まるで航の家でリービーさんが夕食を食べているみたいじゃない!」


「あぁ、そうだよ!だって、リービーは俺の家にホームステイしているんだから。」

「…」


「くるみには言ってなかったっけ?俺の父さん外国に仕事行くこと多いでしょ?その関係で知り合った仕事仲間がいるんだけど、その仕事仲間の娘さんがリービーなんだ。ちょうど日本に留学するって話があったから、じゃあ、俺の家にホームステイすればいいよって父さんが言ってさ。それで、一緒に暮らしてるんだ。」


「そういうことなの?」

「そうなんだよ。学校でリービーが弁当を作ってきたのも、日ごろお世話になってるお礼みたいなものなんだよ。俺は作らなくて良いって言っているんだけどね!」


彼女はしばらく考えこんだあと、「私の勘違いか」とつぶやくと、ボクに話しかけてきた。


「ごめん。リービーさん。さっきの話勘違いだったみたい。ほんとごめんね」

すっきりとした笑顔で言うくるみ。


「ボクは全然気にしてないから、大丈夫だよ!」

「航たちはこれから外食なんだよね?じゃあ、これ以上、リービーさんを付き合わせるのは悪いから、今日はこの辺で!じゃあね!」

「あぁ、また明日な!」

「リービーさんも」

「う、うん。じゃあね!」


ボク達に挨拶を告げると、くるみは歩きだしていった。


しばらくして、ボクは航に尋ねた。

「なんで、戻ってきてくれたの?」

「さっき、喫茶店に行くって話してたでしょ?でも、喫茶店なら、俺たちが別れたところから、右に行ったとこにあるんだよ。近所に住んでる、くるみなら知らないはずはないし、おかしいなと思ってね。一応、心配になって来てみたんだよ」

「そうなんだ…」



また、航には助けられちゃったな。ボクは頬を紅潮させる。


でも、くるみがあんなこと言うってことは、きっと航のことを好き・・ってことなんじゃ?これなら、ボクの目的である恋愛成就も成功したようなものだ。あとは航とくるみがカップルになるように…サポートすれば…


口が重くなり、話すのがつらくなる

二人がカップルになるところを想像すると、なぜか”悲しい気持ち”になる。


この時のボクはおかしかった。だって、航たちがカップルになれば、愛情エネルギーも手に入って、女神の世界に戻れるのに。なぜか二人がカップルになることを想像するのが苦しかった。

二人が楽しく付き合う未来を考えるたびに、胸がきゅうっと締め付けられる。


恋愛の女神として、うれしいはずなのに、痛みが心を突き刺すのだ。


家までの帰り道、ボクはずっと胸の痛みと共に歩いていた。

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恋愛の女神が男の娘でもおかしくないよねっ! なお @Nao2K

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