知ってるしぃ。

紀之介

冗談の通じないやつ

「出たな化物!」


 魔法陣の中に向かって、私は叫んだ。


 異形の物が、不機嫌そうに応じる。


「我輩は悪魔だ。失敬なヒトめ…」


「冗談の通じないやつ。」


 私は腕を組んだ。


「そんな事は、召喚した本人だから 知ってるしぃ」


「其方…我輩に何を望むのだ?」


「別に何も」


 悪魔は虚を突かれた様子だった。


「で、では…我輩を、何故呼び出したのだ?」


「実は私、召喚術使い なんだけどね…」


 天井を仰ぎ見ながら、私は呟いた。


「─ ほら、術って…たまには使わないと、忘れちゃうじゃない。」


「は?」


「ぶっちゃけ…スキル維持のために、呼び出しただけ」


 沈黙する悪魔。


 気を取り直して、声を低く響かせる。


「い、何れにしても…我輩を呼び出した代償は頂く」


「もしかして…魂?」


「当然だ」


「魂を要求して良いのは、願いを叶えた時と、契約がある時 だよねぇ…」


「う」


「あんた…何にもしてくれてないよね?」


「うう」


「─ 私、契約した覚え、ないんだけどぉ」


「ううう」


「約定と掟を重んじる悪魔が…そう言う事して、良いのかなー」


「うううう」


「騙そうとしたんでしょうけど、私を侮らないでね!」


「ううううう」


 脇のテーブル置いておいた、年代物の羊皮紙に私は手を伸ばす。


「良いもの、見せてあげるね」


 革紐を解き、悪魔に広げた皮紙を見せる。


「さて これは、何でしょう?」


「マ、マダクイア閣下の親書?!」


「代々うちの家系は、それなりに親交があってねぇ…」


 狼狽える悪魔に、私は微笑む。


「近々 会うから…ついでにチクっちゃお♡」


「ご、ご勘弁を!」


「えー どうしよぉー」


「な、何卒 ご内密に!!」


「…対価は?」


「何なりと!!!」


----------


 謙虚な私は 大騒ぎになるのもあれなので、若干寂しかった財布の中身を それなりに補充して貰う事で、手を打ったのでした♡

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

知ってるしぃ。 紀之介 @otnknsk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ