#20
空を見上げた。
青い絵の具をいくつにも塗り重ねたような鮮やかな空だった。
透は眩しそうに太陽の日差しを手で遮ると、空を泳ぐ小さな小さな雲を見つけた。
目を細めてしばらくそうして雲を眺めていた。
スーツのネクタイを締め直して、駅へと続く道を歩く。
新たな仕事に就くための面接を行う予定だった。
途中、大きな公園が見えた。
通りからはよく見えないが、その公園は意外と広いことを彼は知っている。
あれ以来、あの白髪頭の老人とは会えていない。
彼の空の絵がどのように完成するのか気になって何度か足を延ばしたが、そこにあの好々爺は居なかった。
あるいはこんな空の日であれば、会えるのかもしれないが。
両親には次の仕事に就くため面接に応募し始めたとだけ伝えた。
諸々が決まってから全てをきちんと報告しようと思っている。
自分を信じて任せてくれた彼らにはそうするべきだと思えたからだった。
友人たちには仕事を辞めたこと、次の仕事を探していることを伝えた。
みんなそれぞれが「がんばれ」と笑顔で応援してくれた。
聡太朗も例外ではなかった。
瑞希とは、あれ以来話をしていない。
何度か電話をかけたが、着信音が繰り返されるだけだった。
父からの言葉を忘れてはいない。
彼女に対して自分ができなかった努めをいつか果たさなければならない。
あの時の自分の気持ちと、今の自分の気持ちを伝えなければならない。
胸ポケットに入れたスマートフォンが鳴った。電話だ。
透は画面で電話の発信元を確認すると、わずかに表情を緩めて通話ボタンを押した。
澄んだ空気を吸い込み、空を見上げる。
「はい――」
小さな小さな雲が、また一つ、空に浮かんで見えた。
空のかたまり とものけい @k_friends
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