場当たり的ショートショート集

髭鯨

ロボット・オブ・ザ・デッド戦争 【SF・コメディ】


 ビー……ビー……ビー……


 ふと気付けば警報音が鳴り響いている。かと思ったらいきなりブシューと蒸気の吹き出す音がした。なんだなんだ、と辺りを見渡すが、視界は真っ白でよくわからない。


「救世主様!」「我らがメシア!」「私達を助けテ!」


 警報音が止むと、そんな言葉が次々に投げかけられた。

 救世主……俺が? ははん、知ってるぞ。このシチュは目覚めたら美少女が俺を取り囲んでるヤツだ。うはっ、待たせたねハニー達!


「見ろ、動いたゾ!」


 蒸気が晴れて、その光景が明らかになり、意気揚々と飛び出した俺はしばらくその場で固まった。そこには美少女なんてのはなく……いや、確かに人型なんだけど、みんな灰色で、顔とか胴体とかが長方形で角張っていた。早い話がロボットだった。部屋もコンクリの壁に配線類が縦横無尽に張り巡らされている。こんなん見てたら脳まで灰色になっちまいそうだ。


「救世主様、折り入ってお願いガ……」


 そのうち一体が丸い目をビカビカさせながら前に出てきた。その異様な姿にうんざりしながらも、とりあえず俺はそいつにハニー1号と勝手に脳内であだ名を付けて話を聞いてみる。すると、どうやら俺はこれまで冷凍保存コールドスリープ状態にあって、永い眠りから起こされたということらしい。なんてこった。


「それで、願いってのは?」

「それは直接見て頂いた方ガ……」


 そう言ってハニー1号は別の部屋に俺を案内した。窓があり、そこからの景色は薄暗く、俺は促されるまま窓を開け、身を乗り出して外を覗いてみる。

 どうやら五階ほどの高さに俺はいるようだったが、地上では同じようなロボット達が大勢で押し合いへし合いの大乱痴気になっていた。バギッと強烈な音がして、ロボット一体が殴られて首が吹っ飛んだのが見えた。するとすぐさま上空から巨大な円形ドローンが現れて、なぜか殴った方をワイヤーで回収していく。


「今、仲間はウイルスの感染者達に襲われていまス。感染者は私達との通信ができず、別のロボットを見るなり噛みついて、噛まれた者も感染してしまうのでス。今回は感染の勢いが凄まじく、被害が食い止められませン。どうか私達をお助けくださイ!」

「いや、無理だろ」


 だって今ロボットの首が飛んでたぞ。俺が行っても死ぬじゃん。


「ご無体ナ!」「そう言わずニ!」「どうかご慈悲ヲ!」


 するとハニー1号だけでなく、2号3号と俺にしがみついてきた。何が悲しくてロボット共とイチャイチャ……ていうか死ぬ、首締まってる、ビクともしねえ、マジでヤバイ。


「わ、わがっだ! 助げる! 助げるがら!」

「おオ!」「やっタ!」「さすがは救世主様!」


 力で押し切られてしまった。甚だ不本意である。


「……だけど俺にできることあるか? 力も全然ないんだぞ」

「しかし私達ではダメなのでス。他のロボットを壊すのは御法度イリーガルで、感染者に対しても同じようなのでス。うっかり壊してしまうと先程のポリスドローンに回収されて、スクラップにされてしまうのでス」


 スクラップ! その言葉に反応して他のハニー達が恐怖に怯えた。「やだ怖イ」と口々に言い合っている。


「つまり、俺ならあいつらを壊しても大丈夫……と?」

「そういうことでス。話が早イ」

「でも……どうやって壊すんだ?」


 俺の疑問に「手はあるゾ」と奥の方から声が上がる。ハニー達の合間からひどくオンボロの一体が現れた。そいつはハカセと呼ばれ、やけに長い筒のようなものを抱えている。


「新型の無反動ライフル、一発で奴らはガラクタじゃヨ」


 おいおいおいおい、簡単に言ってくれる。


「そんな重そうなやつ、俺に使えるかな……?」

「フッフッフ、そう思って強化外骨格も準備済じゃヨ」


 ハニー達がどっと盛り上がる。流石はハカセ、と称賛が鳴りやまない。

 だけどこれじゃ一体ずつ倒すしかない。焼け石に水なんじゃないかと思ったが


「今、仲間がカウンターウイルスを準備していまス。感染に耐性を持ち、逆に噛みついてワクチンを伝染させるものでス。それが出来上がるまで、なんとカ!」


 とせがまれ、ガシリと右腕を掴まれてしまった。血流がそこで止まってる気がした。俺に選択肢はないらしい。

 ええいままよ、と仕方なく外骨格を装着してみると、なんだか意外なほどしっくりきた。腕を動かすとそれに合わせて動いてくれる。抵抗もほとんどない。でっかいライフルを持ってみても楊枝くらいの重さしか感じなかった。

 ハニー達の頼みだ、と強引に自分に言い聞かせ、そのまま窓の外へ銃口を向ける。眼下は相変わらずの様相だったが、ぱっと見た限りどっちが感染者か俺には見分けがつかなかった。さっき噛みついたヤツが今度は噛みつかれていたりする。「私達とは色が違うのを狙っテ」というので、目に付いた古びた一体を狙って引き金を引いた。


 タンッ


 意外なほど軽い音だったが、狙いの一体は木端微塵に砕け散った。ビューティホー、凄まじい威力だ。


「あア! それは仲間の方でス!」


 ハニー1号に怒られる。


「鬼畜!」「非道!」「ロボット殺シ!」


 と非難轟々だったが、「そうか、赤外線が見えないんダ!」「なるほド!」「計算外!」との声があがり、ハカセが俺にゴーグルのようなものを取り付けてくる。

 もう俺には正直どうでもよかったが、確かにこれで下の勢力がくっきり二つに判別できた。ハニー達とは違って黒い色のロボット達が大勢押しかけてきている。今まさに黒い一体が灰色に噛みつき、黒く染め上げていた。

 手始めにその二体を鉄屑に変え、黒く映るものを手当たり次第に撃っていく。ほとんど腕の力も要らず疲れもない。いつまでも撃っていられそうだ。後ろではハニー達が「イケー!」「ヤレー!」と大歓声だ。

 すると黒いロボット達はいつしかこちらを指差し始め、ぞろぞろと大勢で建物の外壁を登ってきた。蜘蛛の大群を思わせるそれにゾっとして、迎撃を始めるも数が多過ぎる。これは……捌ききれない!


「おい! 俺なら大丈夫じゃなかったのか!?」


 後ろでは危険を感じたハニー達が「逃げロ!」と叫んで出口へ殺到していた。ガランとした空間が残って、真ん中で踏まれて壊れたハカセが転がっている。


「くそっ」


 俺は悪態をつきながらとにかく撃ちまくった。が、銃の腕も所詮は素人だ。すぐに黒いロボットに取り囲まれてしまった。


「人間ダ……」「人間ダ……」「人間ダ……」


 感染ロボット達の声が低く響いた。地獄の底からこだまするようだ。

 もう正直死ぬと思っていた。だけど次の瞬間、やつらが次々と噛みついてきたのは外骨格の方だった。そうか、感染するのはロボットで、俺じゃないんだ。助かった……。

 こうしちゃいられない。さっさと逃げ………………あれ、この外骨格、外れなくね?


「うわ、ちょ、くそっ……」


 もたもたしていたら今度は外骨格が勝手に動き始めた。ああもう、どうしたらいいんだ、これ。


「人間、今度はワレワレに協力してもらうゾ」


 感染ロボットの一体がパニくってる俺にそんなことを言ってくる。


「協力って……なんの!?」

「もちろん感染者対策ダ。ヤツラが襲ってきた時や、万一の際はヤツラを排除してもらウ。今回の新型カウンターウイルスは絶好調ダ。このペースなら全員の治療も夢ではなイ。人間という切り札もあればさらに万全――」

「ちょ、まてまて、言っている意味が分からない。感染者ってお前らのことじゃないのか!?」

「何を言っているんダ?」


 目の前の一体がカタカタと頭を震わせて笑っている。


「感染しているのはヤツラの方ダ。ワレワレは治療をしているだけダ」




――終わり


※匿名短編ロボバトル参加作品をアレンジしたものです。

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