そっと

@akiko_ooo

第1話







お風呂から上がると、もう部屋の照明は落とされていてベッドサイドの間接照明だけがささやかに灯されていた。そばには半分ほど水で満たされたグラス。彼女は既に布団に入っていて、こちら側に顔を向けて寝入っていた。

無防備すぎる、頭に浮かんだのはそんなこと。いくら私が真面目な人間だったとしても、過去に彼女に告白をしているわけだし、いまはもう思いを断ち切っているという確証はないのだからもっと警戒すべきだ、なんて母親みたいなことを思ってしまう。

ひとくちだけ水をもらって、そっとベッドに腰掛ける。もう何度も何度も焦がれたその目、鼻、口。髪だってあの頃のまま。触れても、さらさらと手をすり抜けていってしまう。そっと前髪をかき分けて。どうか彼女が素敵な夢を見ますように、と願って隣に敷かれた布団に入った。


(そっちで寝るの、と声をかけられるのはまた別のお話。)












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