第4話 残された時間

(正体がバレてる!?)


「あ、おい!椿!!」

太一の手から封筒を取ると椿はその封筒をあけ始める。

そこには手紙と招待状が入っていた。

手紙を目で負いながら椿はそれを音読していく。


「招待状、あなたを今週の日曜日アルフォート家お屋敷で開かれる仮面舞踏会にご招待いたします。」

「アルフォート家!?今この国、いえヨーロッパで最も権力ある貴族じゃありませんか!?」

「っ!!」

ニコルの言葉に思わず太一の目は険しくなる。

「貴方がお望みの白い光のダイヤ展示させていただくご予定ですので、どうぞお越しくださいませ。怪盗フェンナル様。」


「送り主は書いておりませんわね」

手紙を覗くニコル。

「そらあな。椿、これどうした?」

「え!?知らない。いつ入れられたんだろ?買い物してる時?」

「、なんでお前の正体がバレてる?」

「わ、わかんないよ!」

滅多に本気で怒らない太一の眉間には深いシワが寄っている。

「ーっ!バレているものは仕方がない。しかしこれは罠だ!椿!!お前間違っても」

「行くよ!!!」

「椿!!!」

「椿様!!!」

「罠だってわかってても行くよ!どれが偽物か本物かなんて見分けてる時間なんてない!!少しでも可能性があるのならそれにかけなきゃ!!かけなきゃいけないの!!」

「椿、、、、」

「椿様、、、」

滅多に声を荒らげない椿に今度は太一がひるんでしまう。

「、、、もうわかってるんだよ、お兄ちゃんに時間が無いこと」

「っ!」

「呪い、、どんどん進んでるんでしょ!?隠してるつもりでも私にはわかるよ!!妹だもん!!私、お兄ちゃんに死んで欲しくない!死んで欲しくないの!!

たとえ自分の身が危険にさらされてもお兄ちゃんを、太一兄ちゃんを助けたい!!」

そういうと椿は封筒を握りしめ階段を駆け上がり、自室に戻ってしまった。

その目には涙が浮かんでいた。

「椿、、、、」



うっ、ぐす、

(お兄ちゃんのバカ)

椿は招待状を握りしめたまま、ベッドで涙を流していた。

コンコン

「椿、入るぞ」

太一が部屋に入り、椿は泣き止むと顔を上げる。

「本気、、、なんだな?」

「本気だよ。今回はお兄ちゃんの静止は聞けない」

「そうか。」

そういうと太一は背を向けて座る椿に近づく。

椿は拗ねたように太一を見ない。

「!!」

ギュッ

「お兄ちゃん?」

驚くのも無理はない。太一が椿を後ろから抱きしめたのだ。

「ありがとう、ごめんな。椿。お前を危険に晒したくない、でも危険に晒してるのは俺自身なんだよな。ごめんな。」

「お兄ちゃん、、、」

椿の目に涙が溢れかえる。

「確かにお前の言ったとおり俺にはもう時間が無い」

「っ!っっ」

「もう自分で探すことも盗むことも出来ない。悔しいけど生きようと思えばお前にたよるしかない。でも悔しかった、辛かった。生きるのを諦めようとしたこともあった、けど」

ガバッ

椿は太一に向き直り抱きつく。

「お兄ちゃん死なないで、いなくならないで。私頑張るから、生きて!お兄ちゃんがいなくなったら私、私」

太一は一瞬驚くも泣きじゃくる椿を強く抱きしめる。

「わかってるよ、俺は生きる。お前もいるしまだ死なないよ。だけどな、俺にとってもお前は大切なただ1人の妹なんだ。だから頼む。無茶だけはしないでくれ」

「はい」

ぎゅうう

(お兄ちゃんの抱きしめる手強い、それに震えてる。わかってる、私がお兄ちゃんを大切に思ってる分、お兄ちゃんも私のこと大切に思ってくれてるって。だから私は行くの。行けるの、どこまでだって。どんなことだって)





日曜日ーー


シャッ


部屋のクローゼットを開けるとそこには大量の高価なドレスがかかっていた。

「、、、、。」

それを見る椿の顔はどこか曇っていた。

(昔から不思議に思っていることがある)


「椿様、お召かえ手伝わせていただきます」

部屋にニコルが現れる。

「うん、ありがとう」

「どれになさいます?」

「えーっとね、、、」


(どうして私のクローゼットには昔から高貴なドレスが並べられているのだろうって)


「あ、これなんてお似合いではないですか?」

「ああ、いいかも!!」


(まるで今日のような日に着るよう言っているかのように)


「椿ー!準備できたか?」

「お兄ちゃん!!」


太一が部屋に入ると椿の支度がちょうど整ったばかりだった。

美しい綺麗な薄ピンクのドレスを纏い、髪は丁寧にあげられ、先程より更に美しさを帯びていた。


「よく似合ってる。やっぱり行くんだな?」

「しつこいよ!行くったら行く!もう決めたの!、、、大丈夫、無茶はしないから」

「ああ。それと、、、」

「仮面は絶対外さないこと!!でしょ?もう充分聞いた!わかってるよ!お兄ちゃんからgoサイン出してもらったんだもん、約束は必ず守ります!正体はバレないようにします!」

椿の目は決意と真剣さを帯びていた。

「もしもの時は、、、」

「わかってる、うまく逃げて帰ってくる!任せて!私はあの怪盗フェンナルだよ」

「調子に乗るな!」

コツン

グーでツンッと椿の頭をつつく。

「へへ、まあお兄ちゃんには到底かなわないけどね笑」

「ーで、その荷物はなんだ?」

「へ?あー、これはもしもの時用の怪盗の衣装、、、」

「、、、。」

じぃ、、、

太一の目線が痛い。

「大丈夫!!本当に無茶はしないから!!」

「わかってるよ!気をつけていってこい!」

「はい!」


「やはり私もついていった方が、、、」

「いや、そこまではさせられない。ニコルはここに残って店を手伝ってくれ」

「は、はい」


ニコルと太一の会話を後ろ目に椿はクローゼットから仮面を取り出す。

赤く広がった美しい仮面。装飾が多い訳では無いがとても品がある。

椿はクローゼットの中の光景を怪訝そうに見つめると

シャッ

バタン

カーテンと扉を締める。


締められた扉の中、沢山のドレスがかけられている下には高貴な箱があった。

その箱の表には「カメリア レヴィーネ」とイタリア語で彫られていた。

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怪盗フェンナル 斎藤さくら @M-syousetu

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