第3話 求める理由

夜風が体を吹き抜け、マントがたなびく。

椿の目の前にいるのはあの月光の奇術師。

月を背にしたその青い美しさに見とれながらも椿は我に返る。

その場から去ろうとした瞬間、左手に違和感を覚える。

握っていた白いダイヤがない。

(ーっ、ダイヤがない、、、!)


「お探しのものはこれか?」

椿の心中を察したように月光の奇術師が告げる。

椿がまさかというように月光の奇術師に目を向けると、彼の左手には白いダイヤが輝いていた。

じりぃ

椿は歯を食いしばり、月光の奇術師を睨む。

「どういうつもり?、、、返して」

「返して?これは貴方のものではないでしょう」

怪盗が怪盗に言うには滑稽すぎる返答が返される。

しかしごもっともでもあり、椿は返答できずただ警戒心を強めて睨む。

「1つ聞きたい。何故あなたは盗むのですか?怪盗フェンナル」

「、、、どうして貴方に答えなきゃいけないの」

急な質問に椿は怪訝な顔で拒絶する。

「そうですか、質問に答えて下さる気がないのであれば、このダイヤは捨てさせていただきます」

そういうと奇術師は白いダイヤを宙へと放りあげる。

「まっ、待って!!!」

パシッ

静止を聞くと奇術師は宙に浮いたダイヤを左手で捕まえる。

「では、お話頂けますか?」

「ーっ。、、、、お兄ちゃんを助けたくて」

悔しながらに椿は続ける。

「闇のダイヤに触れたお兄ちゃんを助けたくて!!対になる光のダイヤがあればお兄ちゃんの呪いを打ち消すことが出来る!だから!!」

「、、、、。」

「、、、もう時間が無いの。早くしないとお兄ちゃんが死んじゃうから例え偽者だとしても可能性にかけるの。」

泣きそうになりながら訴える椿の話を奇術師は何も言わずに聞いている。

「、、貴方からしたらこんな私利私欲、許されないかもしれない。でも大切なお兄ちゃんなの!たったひとりの家族なの!!邪魔しないで」

椿は勢いよく言い放つ。

「、、、なるほど。これが本物かどうかは君の目で確かめなよ」

そう言い奇術師は白いダイヤを椿の方へと投げるとそのまま姿を消す。

「ちょっ、待って!!わっ!!」

椿は慌てて宙に投げられた白いダイヤを取ろうと屋根を走り、身を乗り出してダイヤをつかむ。

スライディングし、屋根から落ちるギリギリで再び手の中におさまった。

「ーっ。良かった」

(何よ、アイツ。少しでも力になってくれるかと思った私が馬鹿だった。あくどい貴族から市民を救う、市民の味方だからもっと理解ある人だと思ったのに)

(もう二度と会いたくない)


家に戻り、太一の眠る部屋に入ると取った白いダイヤを眠る太一の手へと近づける。

しかし何も起こらない。それは偽物の証。

光のダイヤではなくただの白いダイヤだった。

重たげな表情を更に重たくし、涙を堪えると椿は部屋を出ていった。

バタン

扉がしまると同時に太一の目が薄く開かれる。その顔は悲しみよりも椿への申し訳なさ、そして心配が大きく出ていた。

「ーったく」

そういうと寝返りをうち、再び眠りに落ちるのだった。



「むう」

朝になっても椿の不機嫌は抜けていなかった。眼も若干赤い。

「おい、椿何をそんな不機嫌になってんだ。昨夜もあまり寝てないだろ」

「何でもない」

「何でもないってお前」

「、、、ねえお兄ちゃん、本当にお兄ちゃんの言った通りだった。月光の奇術師のことなんて何も知らなくて良かったね」

「ーっ!お前まさか!!」

「買出し行ってくる」

「おい!待て椿!!!ーっ」

ドクン

逃げるようにレストランを出ていった椿を追いかけようとするものの呪いが痛み、太一は立ち止まってしまう。

左横にはこないだ買出しに行って買った大量の食材の在庫がある。

「、、、くそっ」

顔に手を当てると太一はしゃがみ込むのだった。


「あーあ、また買いすぎちゃった。逃げるように出てきちゃったし、きっとお兄ちゃんに怒られるだろうなー」

コッ

(流石に今日はいないか、、、)

ふと帰り道、美しい青年と出会った公園を見やる。

(まあそう毎日はいないよね)

そう思いながらも椿は公園へと足を進める。


サアアアア

無人の公園にただ風が吹き抜ける。

(ここに来れば絶対会えるってわけでもないのに、、、疲れてるな、私)

苦笑いを浮かべ帰路につく椿の耳に小さな声が響く。

ピピピピ

「?」

振り返り、声のする方へ近づくと木の下に雛鳥が落ちている。

(可哀想に、巣から落ちたのね)

上を見上げると木の幹にある巣から兄弟達が鳴いている。

「大丈夫だよ。ちょっと待ってね、すぐきょうだいのところへ返してあげるからね」

そういうと椿は買い物を置き、ポケットからハンカチを出すとハンカチ越しに雛を肩に乗せ落ちないよう片手を交互に使いながら軽快に木登りしていく。

「はい、とーちゃく。もう落ちちゃダメだよ」

ピチピチ

椿は雛鳥を巣へと戻すと、雛鳥兄弟のやり取りを優しく見守っていた。

(ん、この種類って、)

椿はふと巣の中にいたもうすぐ大人になるのか毛の色が違う鳥を見つける。

雛鳥の茶色ではなく、その鳥は美しい白い毛並みをしていた。

椿の脳裏にあの美しい青年が戯れていた白い小鳥の姿が浮かぶ。

(良かった、、、、)

そう優しく微笑みながら気の上からの景色を楽しむ。

すると、、、

とくん

椿の中に昔の記憶が流れ込んでくる。


[この木から眺める景色は絶景だろ?]

[うん、綺麗~]

[へへっ、またこの木に登って街を見ようよ]

[うん!!]



「そこでなにしてるの?」

「!」

下からの声に椿はわれに帰る。

「えっ、わっ、わわっ」

その声の主は例の青年。さきほどまで考えていた人が目の前に現れたことで椿は驚き、バランスを崩し、木から落ちてしまう。


「ーっと」

ドサッ

咄嗟につぶった目を開けるとそこには青年の顔があった。

「ご、ごめんなさい!」

青年が見事キャッチしてくれたのだった。お姫様抱っこの形で。

「いやいや、寧ろ急に声かけてごめん。それにしてもなんで木登りなんて」

そういいながら青年は椿を地面に下ろす。

「実は、、、」

そういうと椿は先ほどの木の幹にある巣を指さす。

「雛鳥が木の下に落ちちゃってて、巣に戻そうと思って」

「ふうん。、、、あ、これ君の?」

「あっ」

「今日も買出し?」

「はいっ、一応」

そういうと青年は椿に買い物バッグをわたす。

「大変だね。、、、今日は付き人、いないんだ?」

「ああ、はい。今日は、、」

的を得た質問に苦笑いが絶えない。


「ねぇ、、、君ってお嬢様かなにかなの?」

「え?」

ザアアア

公園に強い風が吹く。

青年の目は真剣さを帯びていた。

「、、昨日付き人の人に様付で呼ばれてたから」

[椿様ー!!!]

「あー💧全然!!ただの一般市民です笑

何故か私のこと様付で呼ぶ人もいるんですけど。多分私がオーナーの妹だからかなって思ったりしてあんまり気にしてないんですけど」

「お兄さんいるんだ?」

「はい!」

「ごめん、なんか変なこと聞いちゃって」

青年の目は先ほどとは変わって優しさを帯びていた。

「いえ、、。」



ふたりはそのままベンチに座り話を続ける。

「今日もお家出てきたんですか?」

「ん。居心地悪いから。こういう誰もいない、静かなところが落ち着く。やっと見つけた安らげる場所なんだ」

(あっ、、、、)

「ごめんなさい、私そんな場所にずかずかと、、」

「別にいいよ。1人2人増えたぐらい。それにここ別に俺の場所でも何でもないしね。、、、っていうか敬語、やめない?」

「えっ?」

「そんなに椿ちゃんと俺、年離れてないでしょ?」

「!!どうして私の名前、、」

「それもニコルっていう付き人が呼んでたよ」

「あっ笑」

2人は見つめ合い年相応の笑顔を見せる。

「椿でいいですよ。」


「そういえば、私あなたの名前知らない。」

「そうだっけ?」

「そうです!」

「知らなくていいよ」

「いやいや、それ不公平です!笑」

「不公平って笑」

(あっ、、、笑った、、、)

「俺は、、、、ねずみ」

「、、ねずみ?それが名前ですか?」

「ん、そ。」

「、、、、。」

「薄汚くて、素早くて姑息で。知恵が働く、1度地に堕ちた灰色の象徴。それが俺」

「!!!そんな!!そんなこと、、、」

「ごめんね、今はそういうことにしといて、、、」

そういうとねずみと自称する彼は立ち上がり、歩いていってしまう。

(きっと、私以上にこの人も色々なものを抱えているんだろうな、、、)

(そして他人に話せないこともいっぱいあるのかもしれない、、、)

「ねずみさん!!」

「!!」

「またね、ねずみさん!」

「!」

(きっと私には知る必要の無いことなんだ。でもねずみさんが自分のことを話してくれる日が来たら私はそれを聞きたいと思う)

「ありがとう、椿!りんご美味しかったよ」

そういいながら去っていくねずみを椿は見つめていた。



「ただいまーー!!」

「おかえりなさーい」

チリンチリン

勢いよく椿がレストランに帰宅。

「おい椿!!」

「ごめんね、お兄ちゃん。朝の事は忘れてもう大丈夫だから」

ドッ

椿は買ってきた買い物と領収書を太一の胸に押し付ける。

「まーた、こんなに買ってきて、、、」

「備えあれば憂い無しっていうでしょ?」

「そういう問題じゃない!」

ととととと

「おい!椿!!!」

逃げるように自分の部屋へ上がる階段を登っていく椿を呼び止めようとした瞬間、


パサっ

バッグの中から一枚の封筒が落ちる。


「おい、待て椿」

真剣さを帯びた太一の声に椿は足を止める。

「太一様?」

「お兄ちゃん?」

その空気と声音に太一の元へと駆け寄る。



『招待状

怪盗フェンナル様』



「っ!!正体がバレてる!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る