第4話 狂いはまだ…
弾は昔から優しい男だった。
遊ぶ時は必ず私の気持ちを優先させ、嫌がることは絶対にしなかった。
幼い男子が、いくら幼馴染とはいえ同い年の女の子とおままごとをするなんて嫌だっただろう。
でも弾は、自分を犠牲にしてでも他人の為に動く優しい子なんだ。
私は幼い頃に彼と出会い、ずっと一緒にいて、優しく接してもらううちに好きになっていた。
でも彼は、誰にでも優しいし、私を幼馴染としか見ていないから、そういった関係になるのは難しいだろうな、と思う。
彼の両親が死んで、2人のお葬式の時、弾の妹の真希ちゃんは声を上げて泣いていた。
弾は微笑みながら真希ちゃんの頭を撫でながら
「大丈夫。大丈夫。お兄ちゃんが付いてるから。ね、泣かないで真希、元気出して?」
と言って慰めていた。
同い年の男の子が、両親を亡くしたにもかかわらず涙を見せることなくひたすらに妹を慰めている姿に私は驚いていた。
でもその後、私が1人でトイレに行くと、物陰から何か物音がしたから近づくと、弾が隠れるようにして、
「っぐ、…うっぐ…かあさん、とおさん…ぐ…。」
と言って声を押し殺して泣いているのを見て、私は弾のそばから離れないでいようと思った。
それは決して同情などではなく、ただ好きな人にもうこんな思いをさせたくないと思っただけだった。
でも私には何の能力も、何も無いから、闇に進む弾を止めることは出来なかった。
黒間一族が滅ぼされた事は、ニュースにも取り上げられ、悪の組織を滅ぼしたとして俺はヒーローのように讃えられた。
だが同時に、明王としての期待が高まってしまった。
ヒーローの妹として真希は恵まれているみたいだし、一果は俺の幼馴染だということで、安易にちょっかいをかける奴も少なくなった。
だが俺は、あくまで明王として黒間を潰したということになっているので、これからも、黒間のような悪の組織を倒していかなければきっと悪者になり、身近な人間達が疎外されてしまう。
また、俺みたいに上に立つ人間にもなれば、恨まれることも多くなり、向こうから戦いを挑んでくることもあるだろう。
争いごとなんてものは嫌いだが、俺は鬼だ。
真希や一果を守るためなら、どんな鬼だってなれる。
俺はもう、俺を捨てた。
「お兄ちゃん、もう心配させるようなことはしないでね?」
あの日の夜、一果の家に迎えに行った俺に真希は涙ぐみながら言った。
あの日の俺は傷だらけだったし、返り血も浴びて、慣れない青眼を使っていた事で血涙もでていた為に真希は異常なくらい心配していた。
「……あぁ、悪かったな。」
と言って俺は真希の頭を撫で、帰るぞ、と言って一果の家に背を向けた。
「ちょっと、弾。」
一果に呼び止められ、俺は真希を1人家に帰してもう一度一果の家を訪れた。
「何をしたの…って、大体予想はつくけれど…。」
玄関で話していたので、おばさんに今の姿を見られなくて本当に良かったな、と思う。
「予想通りだよ。黒間に誘われ行ったら眼をよこせと脅されて、切れた俺が黒間と喧嘩したってだけだよ。」
俺が真希や一果を守る為に、何ていうときっと2人は責任を感じることになるだろう。
そんなことは、誰も望んじゃいない。
「嘘……。弾、あんた脅されたんでしょ?真希ちゃんを材料に…。あんた昔から、誰かの為にしか動かないはずよ…バカ…。」
と一果はうつむきながら言った。
こいつは俺をそんな風に見ていたのか、と驚きつつ、さすが一果は鋭いな、と感心していた。
「そんなことは無い。俺はただこの眼の力を奪われたくなかっただけだ。」
真意を読まれたく無い俺はそう言い放ち、帰ろうと一果に背を向けた。
すると一果が、俺を縛り付けるように
「ねぇ、もうこんな事はしないって約束して?誰の為であっても、まず自分のことを考えて、何でも私に相談して?…お願い、約束してよ…。」
と言った。
そんな約束などできるはずも無い俺は
「おやすみ、今日は悪かったな。早く寝ろよ。」
と背を向けたまま答えた。
翌日から、この件はニュースになり、全校朝礼では校長から表彰までされた。
利己的な理由でして無いことを証明する為にも、俺はこの国が
「ウザい、敵だ。」
と思うものに対して武力を持って対抗する兵器になる、といった内容の契約書にサインさせられた。
こうなってくると、俺はもう死ぬまで戦わなければならない。
だが、先にも述べたように俺は確実に真希や一果の安全が確保されるまでは死ねない。
こうして俺の長い明王としての人生が始まった。
「坊ちゃん、黒間一族が現明王である黒間弾によって滅ぼされたと言うのは事実のようです。」
女は弾と同い年くらいの少年に話しかける。
「そうか…」
「また、黒間弾は、国と、国が嫌がる我々外道な人間、いやそれ以外に武力で対抗し殲滅するという契約を結んだようです。」
「ははっ…。面白いな…、今度の黒間は。前の奴らは屁でもなかったが、こいつは俺たち鳳一族を脅かすかもしれんな、冴香。」
少年は笑いながらその女に応えた。
「どうしますか?大輝坊ちゃん。いえ、鳳大輝組長。」
「組長はよしてくれ…。だがこいつはどうせ俺と戦うことになるだろうな。うかうかはいていられん。」
少年は何かを睨むように言った。
カタストロフを望めばこそ ゆうま @ajitsukiyuma
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