第19話 あなたへの……

たまに沈黙が降りだして

天気予報が外れると

焦ってしまい

言葉を探すうちにも

時計の針はひとまわり、ふたまわり

さて、困ったことに

時が廻ります


***


ひとまわり、ふたまわり


まぁるい鈴らんたちが

絹の色を失いほろり、ほろり

落ち


夏がそのあたりに立っています

春との別れを惜しむ雨のなか

紫陽花の葉を

まずは緑にかがやかせ

その手足を奔放にのばして

赤や青や紫を咲かせるでしょう


ひとまわり、ふたまわり


梅雨という

じっとりとした

陰鬱な雨の時節を

その赤や青や紫が

うっとりとした

梅雨に変え


やがて梅雨を脱ぎ捨て

ありがとうをいう暇もなく

夏は装いを変えて

入道雲に隠れて

いきます


ありがとうをいう暇もなく

わたしもいつか去るでしょう


さて、それはいつの季節か

明日のことか


***


さて、時計の針はひとまわり、ふたまわり

沈黙はもう止みそうです

ひとつの傘みたいに

二人で使える言葉が

みつかったというのに

あなたの声が雲を晴らして

くすくす、と笑い声は踊り

みつけたものが黙り込み


さて、さて、さて、また

晴れ時々沈黙が降りだすのを

待ちながら


春が去るのを二人で見送りましょう

時計の針はひとまわり、ふたまわり

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詩集 帆場蔵人 @rocaroca

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