第二話 告白

 そして朝の光で目を覚ます。

 見慣れない部屋だった。

 頭が痛い。


 ここどこだろう?

 部屋の周囲を見渡す。

 ……京輔君がいる。

 ソファーで寝ている。

 もしかして……京輔君の部屋!?


 私はすぐに下を見る。

 少し安堵した。

 服は着ている。昨日着てきた服のままだった。

 着衣に酷い乱れもない。

 ゆっくりとベッドから降りる。


「う、うーん」

 京輔君が目を覚ました。

 眠そうな京輔君と目が合った。

「あ、遥佳ちゃんおはよう」

 朝からとても爽やかな声。

「あ、えっと、あの……お、おはようございます」

 私の頭の中は罪悪感で一杯だった。


 おそらく意識が飛ぶくらい飲んだのだろう。

 京輔君は伸びをしながら立ち上がる。

 私は少し身構えてしまった。

 それと同時に鼓動が早くなる。


 眠そうな京輔君は何も語らずに冷蔵庫からペットボトルの水を取り出す。

 水を少し飲んで私に放り投げた。

「はい」

 私は慌ててペットボトルを取る。

「飲みなよ」

 ソファーに戻り座り込む。

 欠伸をしながらスマホを確認していた。


 私はお水を貰うことにした。

 少し飲んでペットボトルをテーブルの上に置いた。

「あの……私……昨夜……」

 とりあえず正確な情報が欲しい。

 その為には聞きたくないことも聞かないと駄目だと思って思い切って聞くことにした。

「昨夜、酔っ払ってしまって……あまり覚えてないの……どうして私はここに居るの?」

 私はそう言いながらもう一度周囲を見る。


 そこで気付いた。

 ベッドは明らかに私だけでは無くてもう一人一緒に寝た形跡があった……

 まさか……

 もしそうなら祥子になんて言えばいいの……

 どんな顔をして会えばいいの……

 もしかしたら私は理性を失ってそのまま京輔君との事を望んでしたかも知れない……


「昨日、大変だったんだから」

 京輔君は笑みを浮かべながら言う。

「もしかして……私……」

 真実に迫る質問をしようとしている。


 その時、扉が開いた。

「あ、遥佳起きたんだ」

 祥子が扉の向こうから入ってきた。

 扉はバスルームに繋がるものだった。

「あー気持ち良かった。あ、遥佳も入って来なよ」

 祥子が爽やかに言う。

「え?え?どういうこと?」

 私の頭が混乱している。


 そして二人から昨夜の事を聞いた。

 どうやら私は飲みすぎてバーで眠り始めたみたいで、困った京輔君が祥子に連絡したそうだ。祥子がバーに来てくれて私を連れて帰ろうとしたけど、一番近い京輔君の部屋に運ぶことにしたらしい。


 そして私は京輔君のベッドに寝かされ、その隣に祥子が寝たという事だ。

 祥子は一足先に起きてお風呂に入っている所に私が目覚めたということらしい。

 間違いは無かった。


 それはそれで良かったと思う。

 だけど、間違いがあっても良かったと思う自分が居る。とても最低な人間だと分かっている。だけどこの想いは止められない。

 私は最悪な選択をしてしまった。

「私……私……」

「どうしたの遥佳?」

 心配そうな目で見る祥子。


 もうどうしたらいい?

 私どうしたらいいの?

 京輔君の事が日に日に好きになっていく。

 だけど祥子の事も大好き。

 こんな想いもう嫌なのに……

 頬に涙が流れるのが分かる。


 私はその場で塞ぎこむ。

「遥佳?遥佳?大丈夫?」

 祥子が私の背中をさすりながら声を掛ける。

「祥子……ごめん……ごめんなさい……」

「どうしたのよ?」

「私……私……」

「うん。なあに?ちゃんと聞くから言って」

 祥子の優しい声が私を益々苦しめる。

 嗚咽を漏らす。

 祥子はずっと私の背中をさすってくれている。


 こんな親友を私は裏切っているんだ……

 私に親友を名乗る資格なんてない!

 そう思うと言葉が出ない。

 このまましまい込んでしまえるかも知れない。


 祥子は私の背中をさするのを止めて京輔君のほうに振り向いた。

「京輔!あなた遥佳に何か変な事してないでしょうね!」

 祥子の声のトーンが上がった。

 とても怒っているような声だった。


「何もしてないよ」

 京輔君が答えると

「本当に何もしていないのね?もし遥佳に変な事したらただでは済まさないからね!」

 凄い剣幕で畳みかけるように言う。

「分かってるよ」

 京輔君は困った表情で答えた。


「ち、違うの……」

「遥佳?大丈夫?」

 優しい声に戻った祥子の顔をじっと見つめた。

 その表情は本当に心配してくれていることが分かる。


 私は本当に決心した。

 このままだと祥子を裏切り続けることになる。

 私達は親友なんだもん。

 思ったことを口に出来ないなんてそんなのおかしい。


 祥子はきっと怒るだろう。もしかしたら親友ではいられないかも知れない。

 だけど、隠したままなんてそんなの卑怯だ。

「私……私、京輔君の事が……」

 唾を呑み込んで

「京輔君の事が好き。大好き。祥子ごめんなさい」

 言ってしまった。


 これで私達の友情は終わるだろう。

 それと同時に私の片思いも終わりを告げる。

 だって京輔君は祥子の彼氏なんだから。


「そうだと思った。いつ言うのかなって思っていたけど……まさか私に相談では無くて直接、京輔に言うなんて思っていなかった」

 祥子は優しい笑みを浮かべたまま言った。


「えっと……その……俺は……」

 京輔君が返事を困っている。


「分かってるの!ただ自分の気持ちを伝えたかっただけ……自己満足ってことも自己中ってことも分かってる。だから……それ以上は言わないで……」

 京輔君を見てその後、祥子を見る。

 祥子は優しい笑みのままだった。


「いや、俺だって遥佳ちゃんの事好きだよ!」

 ……え?

 何?

 京輔君、今、とんでもないこと言った気がする……

 祥子の前で何言っているの?

 思考回路がおかしい。

 全然私の頭の処理能力では処理しきれない。


「京輔、先に言われたね」

 祥子は京輔君に笑みを浮かべながら言った。

「うん……」

「男のくせに」

 次に呆れた表情になった。


「祥子……ごめん……私……とんでもないことしたって分かってるの……だけど……止めれなくて……」

「うん?とんでもないこと?何?」

 不思議そうな表情を浮かべる。

「だって……京輔君は祥子の……」

「京輔が私の……あ、彼氏だと思っていたの?」

「え?そうでしょ?」

 何これ?

 どういう事?

 頭がおかしくなりそう。


「あれ?言わなかった?」

「何?」

「京輔は私の弟よ」

 ……え?

 え?え?

 弟……

「え?だって紹介してい人が居るって……」

 1年前、初めて京輔君に会った時の事を思い出しながら聞いた。

「その時言ってなかったんだ……ごめん、ごめん」

「でも祥子に弟なんて居なかったじゃん」

 小さいころから知っている仲だ。

 弟なんていないことぐらい分かる。


「あ、京輔がまだ二歳になった頃ぐらいにうちの両親、離婚してね、その時に離れ離れになったのよ。それが1年前、偶然会っちゃって、だから遥佳に紹介しなきゃって思ったんだけど……なんかごめんね」

 私は全身の力が抜けるような感覚に見舞われた。


 祥子が私の耳元で

「ちゃんと言ってなくてごめんね。私のせいでとてもしんどい思いをしたのね」

 そう言って私を抱きしめる。

 祥子から石鹸のいい香りがする。

 まるで泣き疲れた子供が母親に抱きしめられているような感覚。

 祥子は立ち上がると


「それでは私は帰るね。あとはお二人さんでどうぞ」

 祥子は私と京輔君の肩をトンっと叩いて帰って行った。

 また京輔君と二人きりになった。

 京輔君が私のそばに近づく。

 私をゆっくりと抱きかかえると、

「俺と付き合ってほしい」

 京輔君の目が私をじっと見つめている。

 全身の血液が沸騰しているようだ。

「……はい」

 俯き頷く。

 そして京輔君の唇が私の唇に触れた。

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